リモコン取って

 ドラゴン娘はこたつに潜って、テレビでお笑い番組を見ていた。

 竜といっても、ドラゴンそのままの姿ではない。

 現代日本に住む際、人に化けている。

 

 向かい合っているわたしも、ハムスターを擬人化した女子だ。

 わたしは、スマホをいじってゲームをしている。


『ハム顔やってみて!』

『カリカリカリ……』

『違う違う! ハムスター顔じゃねえよ! 下唇を噛んで、悔しそうに口の中をふくらませるの!』

『こう?』

『それは、ほっぺた膨らませてるの! ハムスターじゃねえんだって!』


 ボケ役が何度も「ハム顔」に失敗して、スタジオの笑いを誘っていた。


「ハム、リモコン取って」


 あれ? コイツ、お笑い好きじゃなかったっけ?


「いや、なんか求めているものと違う」 

「え、つまんないの?」

 

 ドキュメンタリーパートが流れている。

 人生最高のパートナーと知り合って、共に苦労してきたと、画面の芸人は語っていた。

 その芸人のツッコミ役は、もうすぐ妻が出産するという。


「芸人が泣いているシーンとか見ても」

「あー……」


 わかる。

 この番組、ぶっちゃけネタだけ見せてくれたらいいよね。

 この会場に来るまでのプロセスも、大事なんだろうけどさ。

 

「そっちじゃない?」


 ゲーム画面に目を向けたまま、わたしは聞き返す。

 

「あんたの右隣」

「シッポで取ったら?」

「絶妙に届かない。あと、シッポなんて使ったらコタツが壊れる」

「ドラって、そんなパワーがあったっけ?」

「あるんだよ」


 ドラはときたま、興奮するとシッポが出てしまうことがある。

 住まわせてもらっている酒屋のバイトでも、しょっちゅうシッポが飛び出てしまうのだ。

「コスプレです」と、何度ごまかしたことか。

 役に立つと言えば、米を運ぶときくらいだろう。

 ドラがいれば、フォークリフトはいらない。

 人に見られると言い逃れできないが。


「ほらよ」

「と、届かない」

 

 こたつに寝転がったまま、ドラが手をのばす。

 しかし、指だけ引っかかるだけで、まったく届いてない。


「コタツから出りゃいいじゃん」

「いや、寒い」

「マグマ地帯の出身なのに?」

「だから、ちょっとした寒さも苦手なんだよ」


 なんという生活力のなさよ。


「投げてよこそうか?」

「いや、もうちょい」

「それこそ、シッポの出番では?」

「おお、そうだな! よし」


 ドラが腰から、シッポをニョキッと生やす。


「そうそう。そうやってリモコンを……なんでやねん!」

 

 

 あろうことか、わたしの足首にシッポを絡ませてきた。


「ひゃい!?」


 わたしは、ドラのいるところまで引っ張られる。


 ドラのニタっとした顔が、目の前に。

 

「へへ。これでよし」


 

ドラが、わたしの手からリモコンを取ろうとした。


 しかし、その手は虚空を掴む。

 リモコンは、私の手から離れていたのだ。


「あれ、リモコンは?」

「あそこ!」


 わたしは、さっき自分がいた場所を指差した。

 コタツからちょっと離れた場所に、リモコンは落ちている。


「ハム、取ってきて」

「自分で取りなさい」

「コタツから出たくない」

「いやいや、あんたのせいだからね!」


 急に、ドラがわたしの顔を胸に押し付けた。

 ドラの巨乳に、顔が埋まる。

 

「しかもなんであんた、わたしをギュッと抱きしめてんのさ?」

「ぬくい」

「わたしは抱き枕じゃないので!」

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