異世界に残るか、帰るか

 ナナミには素質があった。

 闇を祓うに十分すぎるくらいの素質が。

 わたしが、彼女を目覚めさせてしまった。


「シリア。アンタだって、テメエの都合で魔法少女にしたんだ。『相手の都合を考えないで、異世界へ連れてくるなんて』とかいう言い訳は、聞くつもりはねえ」

「でも。環境が違いすぎるだろ」


 ナナミが魔法少女として生きていても大丈夫だったのは、地球の環境があったからだ。

 地球なら、スマホもコンビニもある。

 しかし異世界では、必要最低限の生活すらままならない。

 そんな不便な世界へ放り込んで、やっぱりムリでしたで済むのか?

 

「だから、この子は一度ヤバイ環境へ放り込む。過酷かもしれない。その上で、普通に生活したいなら帰ってきたらいい。海外旅行みたいなもんだろ」


 獅子を谷底へ突き落とすなんて、レベルではないが。


「いざとなったら、あたしが責任を取るよ。あと一回分くらいしか、地球へは帰れないからよ」


 連絡はできるが、「人間を転移させる力」はあと一度きりしか出せないという。

 

「ラン。あんた、どうしてそんな覚悟までしてこの子を」

「どっちも適齢期だからさ。このまま行ったら、お互い伴侶を持たずに血を絶やすからな」


 二人を引き会わせることができるから、やってみただけだと。

 

「結婚だけが、幸せな人生か?」


 ランもわたしも、結婚することイコール幸せとは思っていない。

 それは、古い価値観だ。

 

「そうは言わん。しかし、可能性はゼロではないからな」

「たしかに」 

「ただ、決めるのはナナミだ。勇者と添い遂げたくないなら日帰り。今後話してみてもいいかなって思ったら、残ればいい」

 

 話し合うだけ話し合ってみろ、と。


「ナナミちゃん、キミはどうするつもり?」

「ここで過ごしてみる」


 どうやら、ナナミはここを気に入ったようである。

 即決してしまっていいのか、とも思ったが。


「うまくいくかどうかはわからないけれど、勇者さん、異性がいなくて寂しいんでしょ? 私も同じ感じだから、お話するくらいならお付き合いできるかも」


 案外、ナナミは前向きだ。


「ナナミちゃん、何かあったらスマホで言えよ。連絡は可能だから」

「わかった。ありがとうランさん、シリアちゃん」


 わたしたちは、ナナミと勇者を残して元の世界へ戻った。


「ナナミ、うまくやれるかな?」

「どうだかな。しかし、少なくとも充実はすると思う」


 わたしも、同じ考えである。

 彼女にとっては、普通の世界じゃないほうが、居心地がいいに違いない。


 だが、それから三日後のことだ。

 突然ナナミから連絡があった。

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