第4話 第二の被害者
彩音さんの無実を証明しようと決めた次の日。
もう少しで校門が見えるってところで突然腕を掴まれて僕は脇道に引っ張られる。
見る人によっては誘拐されてるように見えるかもしれない。だけど僕を見てる人なんていないから、だれも騒がない。
なのに僕の口元に手を当てて「騒がないで」と言ってくる人物。
渡瀬さんだ。
「おはよう赤坂くん。今日もいい天気ね」
どの口が言ってるのだろうか。
僕を羽交い締めにしながら言うことじゃないと思うんだけど。口を押さえられているから返事も出来ないし。
「ん〜〜」
振りほどこうと思えば出来るけど、とりあえず今はまだされるがままにしておく。
なぜなら、背中に当たる二つの膨らみがちょっと気持ちいいから。そんな事を考えている僕は気持ち悪いかもしれないけど。
「あら、ごめんなさい。これじゃあ返事出来ないわね。はい、いいわよ」
「ぷは……。おはよう渡瀬さん。いい天気かどうかはさておき、いきなりどうしたの?」
「あの女に逆襲するいいアイデアが浮かんだのよ。それを早く伝えたくて貴方を待っていたの。ずっと前から」
「ずっと?」
「ええ、貴方がいつ来るかわからないから二時間前からずっと」
この人頭おかしいんじゃないか? 二時間前って五時半じゃん。まだ寝てる時間だよ。
「早起きだね」
「早起きとは違うわね。寝てないもの」
よく見ると目の下のクマが凄い。そしてやっぱり頭がおかしい。
「す、凄いね。それで、いい案っていうのは?」
「あの女をちょっと悪い男達に襲わせるの。それをあなたが助けて惚れられた所をフるの。どう? 完璧でしょう?」
ベタすぎる。そして完璧にザルだ。なによりもそこで惚れてくれるのなら、僕はきっとそのまま付き合ってしまうだろう。だけどそんなことは言わない。機嫌をそこねて和野先生と二人きりにされたら困るから。
「それは確かにいい案だね。で、その悪い男達はどこから?」
「赤坂くんの友達よ」
「僕、友達いないんだけど」
「奇遇ね。私もいないわ」
「…………」
「…………この案は却下ね」
だよね。だと思ったもの。
「となると……いい案パート2ね」
まだあったんだ。さすが寝てないだけある。きっとまたろくでもないことなんだろうけど。
「赤坂くんが私の彼氏に変装して、あの女に口には出せないような卑猥な事を言ってちょうだい」
ほら、やっぱりろくでもない。変装って言われてもさ? コスプレと違うんだから、生きてる人に似せるなんて無理に決まってるじゃん。
それに卑猥なセリフって言うのもちょっとね。
「変装ってどうやるの? 僕、渡瀬さんの彼氏知らないんだけど」
「大丈夫よ。制服は持ってるから」
「…………持ってる?」
いったい何を言っているんだろう?
「怜央きゅんが着てるのと同じの買ったもの」
「…………怜央きゅん?」
ダメだ。頭が痛くなってきた。これは関わってはいけない人種だったんだ。なんで僕はこんな人に助けられてしまったんだろう。むしろあのまま和野先生においしく頂かれていた方がマシだったかもしれない。
「そう、獅虎怜央。私の彼氏。今日も「おはよ」って言ってくれたの。付き合って100日記念には飴を30個もくれたの。おかげでスタミナ切れてもずっと怜央きゅんとイチャイチャ出来たわ」
「飴っ!?」
おっといけない。びっくりして声に出ちゃったよ。
でもこれはしょうがないでしょ? 記念日に飴って親戚のおじちゃんじゃないんだから。
もう完全にアレだよ。渡瀬さん遊ばれてるよ。やめた方がいいよそんな男。
なによりもさ? 寝盗られて恥ずかしい写真撮られてるのに「おはよ」って言ってくるなんてどんな強メンタルなの? 尊敬しちゃうよ。
あと、名前カッコよすぎだよ。
「だから変装は私に任せてくれればいいわ。あとはカツラさえ用意すればいいから」
「カツラ?」
「そうよ。怜央きゅんは金髪だもの」
確定だよ。これ、手伝わない方が渡瀬さんの為になるんじゃないかな? それにそんなふうに遊んでる人なら結構有名人なんじゃない?
「ちなみになんだけど、その玲於くん──」
「怜央きゅん」
「……んんっ! その怜央きゅんはどこの高校なの?」
「私立、
聞いたこと無いな。もしかして遠距離恋愛? でも飴を渡しに来てくれるんだよね?
あ、そっか。きっと隠語だ。バレたくないから嘘の学校名を言ったんだ。
別に僕が知ったところで何かするわけじゃないんだけどな。まぁ、別にいいけど。
それと、今後一切渡瀬さんの彼氏の名前は呼ばない。絶対に。
「そうなんだ。じゃあそろそろ学校行かない? 遅刻するよ?」
「そういえばそうね。なら詳しいことはまた後で」
少し話したからと言って一緒に登校するわけでもなく、一人でスタスタと進んでいく渡瀬さんを見ながらマイペースで歩く。遅刻するよ? とは言ったけどそれは嘘。まだまだ時間には余裕があるからね。
そう、余裕があるはずだったんだよね……。
「お前がボクの怜央きゅんを奪ったんだ! あの日、ボクは怜央きゅんと寝るはずだったのに……お前と寝たなんて……許さないっ!」
校門の前で彩音さんに向かってそう叫ぶ女の子を見るまでは。
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