第37話 その頃のバカ三人娘は……
「さて、どうしようかしら?」
美織はテーブルに肘をつきながらそう言う。
現在の時刻は朝七時。場所は駅前のファーストフード店だ。
「う〜ん? どうすれば拓真くんの力になれるのかな?」
ポテトをツマミながら答えるのは伊月。一番大きいサイズを二つ頼んだのに、そのほとんどが伊月の口の中へと消えていきそうだった。
「いっちゃん食べ過ぎ。奈央もみっちゃんも全然食べてない。太っちゃえ」
そう悪態をついたのは奈央。ポテトは最後に食べる派な奈央はその小さな口でバーガーをゆっくりと食べていた。
「そうね。確かに私と奈央、まだ数本しか食べてないわね。というかいつも思っていたのだけど、なんでそんなに食べて太らないのかしら? 最近はお家からお弁当持ってきてるみたいだけど、その前はコンビニのお弁当二つ食べてたわよね」
「ん〜? なんかね? ボク、太るには太るんだけど、いつの間にか戻ってるの。その分胸が大きくなるんだけどね」
「奈央、私が左胸を引きちぎるから奈緒は右胸をもいでちょうだい」
「御意!」
「ちょ、ちょっとやめてよ!? ボクのおっぱい触っていいのは拓真くんだけなんだからね!?」
両手を掲げて伊月に迫る美織と奈央。その二人から逃げるように胸を隠す伊月にむかって奈央が言ってはいけないことを口にした。
「冗談、どうせその大きさじゃすぐに垂れる。餅みたいに」
「んにゃっ!?」
「そうね。ブラで支えなくても張りがあるのは今だけだものね。そのうちブラを付けてないと形を保てなくなるわ」
「にゃんですと!?」
「そんな肉の塊よりも拓真の為になる事を早く決めましょう。私、昨日アプリでこの四人用のグループ作って来たのよ。今から招待送るから入ってもらえる?」
「御意 」
「今承認のところタッブしたよ。っていうか、ねぇ二人とも! ボクの扱い酷くない!? ポテト食べただけでなんでそこまで言われるの!? わかったよもう! 今もう一個頼むから。それでいいんでしょ? 」
ちなみにそんなやりとりをする三人の格好は私服。だか今日は平日である。つまり学校をサボっているのだ。
「あ、拓真が参加を拒否したわ。きっと間違えたのね。また間違えるかもしれないからもう三通程送っておかないと。あと、一応みんな別行動をしてる感じでメッセージ打っておいて。じゃないときっと拓真にはバレるから」
「そうだね〜」
「で、どうする?」
奈央の質問に対して美織は腕を組み、顎に手を当てながら考え込む。
「そうね……とりあえず相手の動向を知りたいわね。何か方法はあるかしら?」
「GPSとか?」
「それしかないわね。でもどうやって?」
「それなら奈央に考えがある」
そう言って奈央がポケットから出したのは一枚のカード。
「それはな〜に?」
トレーに新しいポテトを三個載せて戻ってきた伊月が首を傾げながら聞くと、奈央はドヤ顔で答えた。
「これは、なんでも買えるお姉ちゃんの魔法のカード。これで中古のスマホを買って、それを足がつかない場所で売る。そして更に中古のスマホを買う。これなら捨てられても大丈夫。そして追跡用にタブレットも買う。大丈夫。お姉ちゃんお金持ちだからこれくらい使ってもバレない」
「それはなんだか悪いことのような気もするけど……仕方ないわね。それしかないわ」
「じゃあボク、その追跡用のアプリ探すね。後は会話も聞けるといいよね? ちょっとイジってみよっかな」
「伊月、あなたそんなの出来るの?」
「勉強はだめだけど、こういうのは得意なの」
伊月がそう言って胸を張ると、プルンと揺れる胸。
「くっ、やっぱり悔しいわねその胸は……。まぁいいわ。なら私はそのスマホをあの男に渡す役をやるわ。この中じゃ私が一番大人っぽいものね。濃い化粧をして母親の服を着れば私だってバレないでしょう。この前は外暗かったしちゃんとは見えてないはず」
「なら奈央は早速買いに行ってくる。あ、いっちゃんも着いてきて。奈央、どんなの買えばいいかわかんないから」
「おっけ〜」
と、そこで全員のスマホが震えた。
「拓真からだわ。えっと……なるほどね」
「そっかそっか。拓真くん、コレを使うんだね」
「奈央も見たい」
「それは今度お願いしましょう。それにしても……私たちの好きな人はホントにお人好しね。一度は襲われかけた相手を助けようとするなんて」
「そうだね〜。ボク、それをミオリンから聞いた時はびっくりポンしたけど、それが拓真くんなんだもんね」
「さすが奈央の彼氏」
「私の彼氏よ?」
「ボクのだよ?」
「「「…………」」」
三人とも譲らない主張に沈黙が流れた。
「……ふぅ。ここで睨み合っても何も始まらないわね。さ、行動開始よ」
「らじゃです!」
「御意っ!」
「「「全ては愛する人の為に!!!」」」
全員が右手を出して重ね、声を合わせてそう言うと各々が行動を開始した。
◇◇◇
三人が出ていったあと、カウンターに立って接客をしていた二人の店員はテーブルを片付けながらこんな会話をしていた。
「あの胸が大きい子、一人でポテト五個食べたわね」
「そうですね〜。てかてか! それよりもあの子達の会話聞きました? 頭おかしくないですか?」
「まぁ、世の中には色んな愛があるのよ。私だって昔は店長と……」
「ちょっと先輩! 店長と昔なにがあったんですか!? 先輩って結婚してましたよね!?」
「ふふふ。女の秘密よ」
「めっちゃ気になるんですけどー! 教えてくださいよ野村チーフ!」
「聞かない方がいいわよ? それよりも私は自分の娘が心配だわ。さっきの子達が夢中になってるような男に引っかからなければいいんだけど。最近気になってる子がいるみたいなのよね。ちょうど三者面談の後くらいから」
「どうなんですかね? けど先輩の娘さんしっかりしてそうだから大丈夫じゃないですか? 見た目はアレですけど」
「そうなのよね。見た目がね……はぁ」
ため息を吐いたこのチーフ。実は拓真のクラスの委員長、野村美來の母親であった。
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