第30話 家を教えてないハズなのに
「電話なんだった?」
渡瀬さんにいきなり通話を切られ、そのスマホを再びテーブルに置いて母さんのところに戻るとそんな事を聞かれた。逆に僕が聞きたいくらいだよ。
「さぁ? ボソボソ言われて切れたから」
「女?」
「一応」
「へ〜、ほ〜、ふ〜ん」
ニヤニヤしながらハンバーグのタネをフライパンの上に置いていく母さん。
なんだよその顔。
「なに?」
「うんにゃ、べっつにぃ〜? あ、でも……ねぇ拓真、あの担任の先生の名前なんだっけ?」
「和野先生のこと?」
「そうそう、その和野先生。あの人でもいいんじゃない? あの人、拓真に惚れてるでしょ。確実に」
…………は? 惚れ……え? あれはただ単に先生が歳下好きで僕の体を狙ってるだけのはずじゃ? その為に『ちゅき〜』とか言ってるだけでしょ? 一度抱かれたら僕は捨てられる『体だけが目当てだったんだ……ホロリ』のパターンでは? 恥ずかしがり屋な歳上お姉さんが二人きりになった途端に肉食系になって顔を赤くしながら迫ってくるのはイイけど、最初からグイグイ来られるのはちょっと……。
「な、なにを根拠にそんなことを?」
「拓真に向かう目線。その見つめ方。声のトーン。あと女の勘。あのタイプはな……とにかく男に従順になるタイプだぞ。最初は少しめんどくさいけど、上手く付き合えば言いなりになるな。金も持ってそうだし。胸も大きいし」
「それはなかなか……ってそういう問題じゃないよね? ましてや先生はもう27歳だよ? 僕の11個も上なんだから」
「え? アタシの2個下なの!? 24歳くらいかと思ってたわ〜。童顔なんだな〜」
まったく。変なことを言わないで欲しい。今度二人きりになってしまった時に逃げるのを躊躇して美味しく食べられたらどうするんだよ。話変えないと。
「そういえばさ、兄ちゃん達はいつ結婚するの? 母さんは何か聞いてる?」
「和真か? ん〜特に何も聞いてないかな。彼女のゆかりちゃんとは歳も近くて話も合うからいつ結婚してもいいけどさ」
あーそういえば日高さんも母さんと話が盛り上がったって言ってたね。なら嫁姑問題は大丈夫かな。
「けど今なんか大変な事になってるみたいだからな。その辺は本人達に任せるさ。何かあればいつでも相談に乗るってことも言ってあるしな」
「なるほどね」
あれ? でも待ってよ? 兄ちゃん達が結婚したら奈央ちゃんはどうなるんだろう? あの広い部屋に一人で住むのかな? まるでセレブだね。
ぐぅ
あ、お腹鳴った。
「ほら母さん、ハンバーグ焼けたみたいだよ? 早く食べようよ」
「はいはい。じゃあこれテーブルに運んで」
「うん」
テーブルに並ぶハンバーグとポテトサラダ。それとオレンジジュース。あとなぜかケーキ。なんでケーキがあるんだろう?
「じゃあ、拓真のモテモテ発覚と新しい家族にカンパ〜イ!」
「カンパ……え? どゆこと?」
「実はこの度、ようやくダーリンとの子を授かったの〜♪ この前の漁から帰って来た時に見事命中って感じ? 良かったな拓真。弟か妹が出来るぞ?」
子供の前で命中とか言わないで。でも……新しい家族が出来るんだ……。そっかぁ。あ、ケーキはそのお祝いなんだね。
「母さん、おめでとう」
「おう! ありがとな! 結婚してから9年。長かったなぁ……。欲しくても中々出来なくて……ほんと……ほんとに…………ふぇぇん」
「ほんとに良かったね。母さん」
「うん。うんっ! 嬉しいよぉぉぉぉ……」
嬉しいだろうなぁ。僕ももらい泣きしちゃったよ。
◇◇◇
翌朝、目が赤くなっていないかを確認してから家を出ると、そこにはなぜか藤宮さんの姿。
だから僕はドアを閉める。
「なんでぇ!?」
なんでじゃないよ。教えてないのになんで僕の家知ってるんだよ。怖い怖い怖い。
「た、拓真くん! 別にあとをつけたとかじゃないからね!? 奈央ちゃんと一緒に来ただけなんだよ!?」
奈央ちゃんと?
僕はゆっくりと再びドアを開けると、藤宮さんの隣に立つ奈央ちゃんの姿。なるほど。奈央ちゃんなら僕の家を知ってるからその言い分は理解できるね。
けど、なんで一緒に?
「どうして朝から僕の家に?」
「あのね? ボク、彼氏を迎えに行って一緒に学校行くの憧れてたんだ。そしたらね? 奈央ちゃんが拓真君の家を知ってるって言うから、一緒に来たんだぁ…………って待って。ねぇ拓真くん。なんで奈央ちゃんは拓真君の家知ってるの? ねぇ? ……ねぇ!」
怖い怖い怖い! そんなの藤宮さんには関係ないじゃないか!
そして奈央ちゃんもなんで言うのかなぁ!
ちょっと奈央ちゃん!?
僕は抗議の意味も込めて奈央ちゃんを少し睨むように見つめる。
「……っ! んんっ! はぅぅん……」
すると奈央ちゃんはビックリした後、何故か目尻が下がって蕩けたような表情になり、息が荒くなってきた。
──これはヒドイ。
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