第19話 エクスカリバー!!!

 今、僕の前のテーブルには様々な料理がならんでいる。作ったのは藤宮さん。自分で言うだけあって、料理の腕は確かだったみたい。

 そしてそれを囲む僕を含めた四人。いざ食べようかという時、渡瀬さんがいきなりこんな事を言い出した。


「という訳で、あの女への復讐方法を変更する事にしたわ」


 何がという訳なのかはわからないけど、まだ諦めてなかったんだね。

 ここはもうハッキリ言っておこう。じゃないとまた巻き込まれそうだし。


「何をどう変更するのかはわからないけど、もう僕は手伝わないよ?」

「そんなこと言っていいのかしら? 今、この通話ボタンをタップすれば和野先生に繋がるのよ?」


 いつの間に連絡先を入手したんだろう。そしてやることが三流悪役だ。だけど効果は抜群だ。そんなことをされたらきっと、僕のエクスカリバーが和野先生の鞘に納まってしまう。

 だけど僕は屈しない。この想いは止められない。


「この際だから言っておくけど、僕は彩音さんが好きなんだ。だからこれ以上嫌われるのはさすがにちょっとね」

「「「!?」」」


 うん。三人ともびっくりしてるね。だけどごめん。あとは三人で頑張って。あ、唐揚げ食べよ?


 バキッ!


 ん? なんの音?


「なんてことなの……まさか現実世界にまで手を広げていたなんて……。ユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ……」


 なんか渡瀬さんがボソボソ呟きながら箸を折っていた。いや、それ、日高さん家の箸なんだけど。


「ねぇ拓真くん。お金欲しくない? 来週バイト代が入るの。それ全部あげる。なんならブラジャーも。大きいからバックにもなるよ?」


 藤宮さんは人をお金で買おうとしないで! ブラジャーも入りません! バックって何!? 捕まるでしょ!


「ふみゅ……やだぁ! ヤダヤダヤダヤダッ! ふみゅぅ〜!」


 奈央ちゃん……今度は幼児化? キャラはちゃんと固定しようね?

 まったく。なんで僕を巻き込もうとするんだよ。


「ごめんなさい。ちょっと耳が鈍感系になってたみたい。それで新しい作戦なんだけど、拓真には私の彼氏になってもらうわ。それでイチャイチャ甘々ラブラブチュッチュしてる所をあの女に見せてやるのよ。あ、えと……あくまでフ、フリよ? つ、付き合ってるフ、フリなんだからねっ! 勢い余ってほんとにチュッチュしてもそれは事故なんだから!」


 鈍感系ってなにかな? それとそれはツンデレキャラなのかな?


「そ、それズルい! ボクもそれやる! 拓真くんにはボクの彼氏になってもらってイチャイチャラブラブパフパフポヨンポヨンチュッチュしてる所を見せつけないと! あ、えと……あくまでフリだよ? うん、フリ(今日の下着可愛かったかな……? あ、フリル付きのだ。ヨシ)」


 パフパフポヨンポヨンってなにかな? そして首元広げて中を見るのやめようか。ヨシって何が? あと、パフパフポヨンポヨンってなに?


「な、奈央も! 奈央も弟くんに彼氏になってもらってイチャイチャ甘々くんかくんかチュッチュするとこ見せるの! だけどこれはフリなの!」


 くんかくんかって? 匂いかぐのはやめて欲しい。あと僕の名前覚えて。



 ──さて、三人とも好き勝手な事を言ってるみたいだけど、僕の答え一つ。


「お断りします」

「そうね。何かあった時に連絡手段がないと困るわね」

「「確かに」」


 ……ねぇ、僕の話聞いてる?


「というわけで拓真。連絡先教えて」

「嫌だよ」

「教えないなら……」

「な、なに?」


 いったいなにをするつもりだろう? どうしてそんなに不敵な笑みを浮かべているんだろう?


「授業中以外はずっと廊下から拓真を見つめる」

「家まで隠れてついて行って毎日拓真くんの部屋の窓を見つめる」

「登校したらお腹さすりながら『ね? パパ』って言って見つめる」

「教えます」


 そんなことされたら怖すぎるよ。なによりも僕の精神がもたない。

 まぁ、何か連絡が来たとしてもスルーすればいいだけだもんね。


「ふふ、拓真のIDゲット」

「やったぁ♪ あ、拓真くん用に新しいスタンプ買おっと」

「…………ふひひ」


 そして僕のメッセージアプリには新しく三人の友達が追加された。

 ただでさえ和野先生からのセクシーアタックが凄いのに、これからはこの三人から……憂鬱だなぁ。


 僕は少し落ち込みながらおかずに箸を伸ばす。その時──


「わあ! 我の手がスベッター」

「つめたっ!」


 奈央ちゃんの倒したコップの中に入っていた野菜ジュースが僕のズボンにがっつりかかってしまった。

 あーもう、こういうの乾くと臭いのに。


「拓真大丈夫? 風邪ひいちゃうわ。ほら、早く脱がないと」

「いや、すぐ帰れば大丈夫だから」

「せっかく作ったんだから食べて欲しいな〜」

「少しは食べたよ?」

「お客人を汚れたままで帰すなど怒られてしまう。洗ってしんぜよう」

「いや、大丈夫だから。……ちょっと? 大丈夫って言ってるよね? 待って待って! ズボン脱がそうとしないで!」


 で、僕は今、何故か日高家の浴室でシャワーを浴びてる最中です。

 日高さんの部屋の洗濯機は、乾燥機もついてて30分程で乾くっていうからお願いする事にしたんだよね。決して僕のズボンを脱がそうとする形相にビビった訳では無いよ。ホントだよ。


 さて、汚れと匂い落ちたし、そろそろ出よっと。着替えは奈央ちゃんが日高さんのスウェット貸してくれるって言ってたし。

 けどこれ、ファンにバレたら僕抹殺されそうだなぁ……。


 そんな事を思いながら浴室のドアを開けると、何故かそこには三人姿。だけど誰とも目が合わない。

 彼女たちの視線は一点集中。それなのに僕も予想外の事態に体も思考も動かない。


「…………」

「「「…………」」」


 パタン


 僕はなんとか体を動かして浴室に戻り、扉を閉めた。その直後、


「「「きゃぁぁぁぁぁ!!! 見ちゃったぁぁぁ!!!」」」


 三人の甲高い声が浴室にまで響き渡ったんだ。


「濡れた筋肉、ヤバい!」

「濡れた髪、ヤバい!」

「やぼばばば!」


 いや、いいから早く出ていってよ。

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