最終話 YES or NO

 僕はファンシールームで先生を待つ。ちなみに車がないのは車検に出してきたからだって。


「えっと……お待たせ?」


 ようやく着替えて浴室から出てきた先生の姿は猫だった。いや、これだとちょっと語弊があるかな。

 正確に言うと、以前見たうさ耳部屋着の猫耳バージョンだ。


「チチチチチチ……」

「た、確かに猫だけどそうやってチチチ言わないで!? 猫みたいに行かないよっ!?」

「…………」

「な、なに?」

「チチチチチチ」

「う、うぅ……。にゃあ」


 僕の勝ち。先生は猫みたいに鳴きながら僕の隣にくっついてくる。せっかくだからちょっとアゴの下をくすぐってみようかな。


「んひゃっ! ちょっ……くすぐったいよぉ~」


 これはちょっとおもしろいかも。だから更に続けてみる。今度は緩急を付けて。


「んっ……! これ、ちょっと気持ちいいかも……ふぁ」


 しばらく続けていると先生の目は蕩けていき、今にも寝てしまそうな顔になってきたところで止める。すると先生はパッと目を開くと残念そうな顔になって僕にもたれかかってきた。


「ん〜、もう終わり〜? もっとして?」

「もう終わりです。先生寝そうになってましたから」

「だって気持ちよかったんだもん。ちょっと猫の気持ちわかったかも」

「じゃあ先生は今から猫ですね」

「…………ご主人様のペットだにゃん♪」

「…………」

「無言やめてぇぇぇ……。恥ずかしいのを頑張ったんだからぁ〜」


 猫耳フードを目の下まで被って悶える27歳。実にいいと思います。ギャップ萌えってやつだね。


「それより電話で言ってたご馳走っていうのは? 僕、結構楽しみにしてたんですけど」

「あ! そうだった! 今から準備するからテレビでも見ながら待っててね?」

「わかりました」


 そしてテーブルに並んだのは本当に豪華な料理。若干スタミナが付きそうなのが多い気がするけど、多分気の所為だね。


「すごいですね」

「頑張ったもん! それで…………ご褒美は?」

「はい?」

「ご主人様なら頑張ったペットにはご褒美を上げるべきだと思うの」

「さっきは恥ずかしがってませんでした?」

「それとこれとはべ〜つ! ……なんてね♪ ほら、食べよっか?」


 さてどうしようかな。ご褒美……ご褒美……。


「赤坂くん? どうし──」


 僕は隣にいる先生を抱きしめて、


「ありがと」


 そう耳元で囁いてみた。


「っ!」

「じゃ、いただきます。……先生? 食べないんですか?」

「…………」

「先生?」

「…………みみぃ……」


 話しかけても先生は耳を押さえながら顔を赤く染め、ポ〜っと僕を見つめて動かない。何かボソボソ言ってるみたいだけど聞き取れないし、まぁいっか。食べよっと。


 隣で無言のままで僕をチラチラ見ながらモッモッモッモッ食べる先生を見ながら食事を終えたあと、今度は僕がシャワーに入った。もちろん着替えは持ってきてる。僕が着たのは肌触りの良い前をボタンで止めるタイプのパジャマ。前はジャージとかスウェットだったんだけど、母さんが買ってきてくれたからそれ以来はコレを着てるんだよね。


 そして髪もしっかり乾かしてから部屋に戻ると、先生はソファーに三角座りをしながら両手でカップを持ちながらコーヒーを飲んでいた。


「あ、さっぱりした?」

「はい。ありがとうございました」

「ん〜ん、いいよ〜」


 そして例の如く自分の隣をポンポン叩く先生。その通りに隣に座ると、先生はカップをテーブルに置いて僕にくっついてきた。


「あのね? 二人ともパジャマでまったりって、なんかいいね♪」

「そうですか?」

「うん。二人だけの何も邪魔も入らない空間って感じするの」

「まぁ……たしかに」

「へへ」

「そういえば今日の料理、本当美味しかったですよ」

「ほんと? 良かったぁ〜」

「僕、唐揚げ好きなんです」

「男の子だもんね〜」

「棒棒鶏も好きなんです」

「あれね? ちゃんとタレから作ったんだよ? 凄い?」

「凄いですね。あ、あと僕がシーザーサラダ好きなの覚えてたんですね」

「もっちろん!」

「好きなんですよ」

「知ってるぅ〜♪」

「先生が」

「そうなんだ〜…………へ? ま、待って? 待って待って! 今なんて!? 今なんて言っ──んむぅ」


 僕は先生を抱きしめてキスをする。拒否られないのは知ってる。だって先生は僕のことが好きだから。

 そして唇を離した。


「今のは静かにさせる為に口を塞いだんじゃありません」

「ま、待って? へ? 頭がこんがらがっちゃってよくわかんない……」

「ならもう一度しますか?」

「な、なにを──……んっ! ……ぷぁ。……え? え?」


 もう一度キス。唇を離すと同時に先生の肩を軽くと押すと、力が入ってないのかすぐに後ろにポフンと倒れた。


「きゃっ」


 僕はソファーの上に横になった先生の上に覆い被さるように動くと、顔の横に手をついた。


「あ、赤坂……くん?」

「あのメモが書かれた紙袋の中の下着、見せてくれるんですよね?」

「え、あ、それって……」

「さすがに先生が何を期待していたのかは僕だってわかります」

「あ、あぅ……」


 先生は顔を真っ赤にして視線をキョロキョロ動かすけど、やがて観念したように小さく頷いた。


「は、はいぃ……」

「もう一度言います。先生……いや、香里奈さん。俺は貴女の事が好きだよ」

「……うん。うん。私も好き。大好き。どうしよう……すごい嬉しい……」

「だから何を……とはハッキリとは言わない」


 そのまま僕はパジャマのボタンを一つ外す。自分のも、香里奈のも。


「いいんだよな?」

「………………ぅん」


 そして──


「あっ…………」



 ◇◇◇



 翌朝、というか昼頃に二人同時に目が覚める。それからしばらく布団の中でくすぐり合いとかをして遊んだあと、二人で昼食を買いに行くためにマンションを出た。その時だ。


「「「あーーーーーーっ!!!!」」」


 声のする方を見ると、そこには渡瀬さんに藤宮さん。そして奈央ちゃんの三人がいた。

 一週間見ないと思ったらよりにもよってなんでこんな所に?


「あ、みんな久しぶり」

「ひ、久しぶりじゃないわよ拓真! どういうことなの!?」

「そうだよ拓真くん! なんで先生と手を繋いでるの!?」

「たっくんと先生、同じ匂いがする」

「気の所為じゃない? 手を繋いでるのは迷子にならないためだね」


 恋の、とはさすがに言わない。失笑ものだからね。


「「「ね……」」」

「ね?」

「「「寝取られたぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 だからさ、僕は君達三人とは付き合ってないんだからNTRじゃないってば。解釈違いだね。





【ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!〜彼氏(?)をNTRされたと言い張る女ばかり寄って来るんだけど僕をざまぁの道具にするのはやめてくれません?〜】


〘fin〙









 ん? いきなり目の前に透明なパネルが出てきたけど。えっとなになに……『このまま続けますか? YES or NO』……なんだこれ。よくわかんないけどどっちかを選べばいいのかな?



 そして僕が選んだのは────







 エピローグへ続く

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