第32話 ハーレムの誕生
学校についてからも渡瀬さんの様子はおかしい。何故か一定の距離から近付いてこないんだよね。
廊下から僕を見つめて、目が合うと真っ赤になって目を逸らすんだ。まるで少女漫画の恋する乙女のように。
彼氏のフリのはずなのに、それじゃあ付き合う前のフリみたいだなって思ったけど、それは言わないでおく。今の方が平和だしね。
それよりも今一番の問題は目の前の二人なんだよね。今はちょうどお昼休みなんだけど、藤宮さんと奈央ちゃんが箸におかずを挟んで僕に向けてきてる。
藤宮さんの箸にはミートボールが。奈央ちゃんの箸にはコンビニのサンドイッチが。デカい。
「拓真くん、あ〜んっ♪」
「たっくん……あんっ!」
奈央ちゃん、せめて【あ】の次は伸ばしてくれるかな? 僕はリモコン的なもの持ってないからね? 遠隔でナニかしてないからそんな声出さないで。勘違いされちゃうから。ていうか、あ〜んされても食べないから。彼氏のフリじゃないってわかったからね。
「拓真くん……」
目が据わってるスマホを持つ藤宮さん。
「た、たたたたたたたたっくん……」
小刻みに震え始める奈央ちゃん。
「「た・べ・て♡」」
「いただきます」
食べるしかないよね。彩音さんの平穏を守るためにもさ。さっきの呪いを見たら断れないよね。例え偶然だったとしてもさ。モッグモッグ。
「んなぁぁぁぁぁっ!?」
渡瀬さん、廊下でそんな声上げないで。みんな見てるから。
「ミオリンほんとどうしたんだろ? 彼氏のフリのフリごっこしないのかな?」
「彼氏のフリのフリのフリごっこかも」
もう何がなんだか……。ってあれ? 渡瀬さんこっちに来たや。手に持ってるのは……お弁当?
「…………わ、私も食べに来たわ」
「あ、うん」
いつもだよね。
「こ、ここ座るわね」
渡瀬さんはそう言うと、学食に行ってて教室にいない子の椅子を持ってきて座る。……僕達から2メートル程離れた場所に。遠くない?
「コ、コレ見て……。自分で作ってきたの……」
そう言いながら膝の上でお弁当を広げるけど、遠すぎて見えない。白と茶色しか見えない。
「渡瀬さん? 見えないからもう少し近くに来てよ」
「ち、近くに!? そんな……『俺の傍にいろ』なんて……」
「そんな事言ってない」
「いいの。わかってる。今ので私も決心が付いたわ」
「絶対わかってない」
「そうよね。今思えば簡単な事だったのよね。なんの関係も無いのに私の心を救ってくれた。おかげさまでお母さんも昨日からすこし変わったもの。そしてそんな事をしてくれる理由なんて一つしかないものね」
「渡瀬さん聞いて」
「てっきり私からのアクセ──じゃなくて、一方通行だと思ってたから恥ずかしくて距離を置いてたけど、そんな必要もなかったのね」
「渡瀬さ──」
「拓真は私の事が好きだったのね! 大丈夫よ。私も拓真が好き。もうフリなんてしなくていいのよ! だから一緒にお墓に入りましょう!」
「全然好きじゃないよ」
「死にたい」
僕のことが好きって何? なんで? それにいきなりお墓とか飛びすぎで怖すぎるんだけど。何よりも勘違いが酷いよ渡瀬さん。僕は全然好きじゃないからね?
……ん? ちょっと待って。昨日のは別に渡瀬さんの為に言ったんじゃないよ。母さんをバカにされたからだよ。だからそれで惚れられても困るんだけどな。
「というわけで伊月も奈央もごめんね。私の拓真なの」
「え、ボクの拓真くんだけど?」
「奈央の」
「「「……………」」」
……少し状況を整理してみよう。
まずは、何故かは知らないけどこの三人が僕に好意を持っているってこと。
そしてその三人共ちょっと頭がおかしいってこと。
僕が彩音さんの事を好きだってことを完全にスルーしてるってこと。
えっと、これって一応ハーレムになるのかな? ハーレムってこんなに嬉しくないものだったの?
困るんだけど。はぁ……。
◇◇◇
その日の放課後、三人に見つからないように窓から外に出て、窓枠を伝って行った屋上に少し隠れた。そこで時間を潰して外が暗くなってから帰ろうとした時、二階の窓まで降りたところで下から声が聞こえる。
あれは和野先生と……誰だろう? 見た事ないけど、割とおじさんだね。あ、おじさんが和野先生の腕を掴んだ。
「や! ちょっとやめてください! なんでここまで来るんですか!?」
「なんでって? それはキミに会いたかったからに決まってるだろう? 今も一人なんだよね? なら、ヨリ戻さないか?」
「嫌です。あんなことしておいて今更……」
「やれやれ。あぁ、今日はいきなりだったから戸惑ってるんだね? わかったよ。また、落ち着いた頃に来るから」
「もう、来ないでください……」
「はは、おやすみ」
あ、キスしようとしてる。
「やっ! 離れてっ!」
和野先生逃げちゃった。
そして謎おじさんも車に乗っていなくなったや。
「なんで……なんで、今頃来るの……」
…………先生、なんで泣いてるんだろう。
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