第35話 スパイ(失敗)大作戦

「えっと……今日の休みは日高さんね。あとは特に連絡事項は無し。あ、今日の日直は後で職員室に来てね。今日の先生の授業で使うプリント渡すからみんなに配ってちょうだい」


 翌日、和野先生は朝から元気が無いみたい。白衣はヨレヨレ。髪もボサボサで実年齢に近く見える。普段はロリ巨乳な女子大生くらいに見えるのにな。


 ってそれよりも気になることが一つ。

 それは奈央ちゃんが休みってこと。そういえば朝、いつも出てくる場所で会わなかったんだよね。奈央ちゃんだけじゃなくて渡瀬さんも藤宮さんも出現しなかった。呼ばれなくてもいつの間にか近くにいるのに、今日はいなかったんだ。てっきり隠れ身の術でも使ってるのかと思って壁とか電柱をじっくり見てみたけどそんな気配もない。

 奈央ちゃん以外の二人も休みなのかな? クラスが違うからわかんないんだよね。まぁ、平和でいいんだけど。


 …………ん? スマホが震えてる。なんだろ?


『渡瀬美織さんがグループに誘っています。参加しますか? YES/NO』


 これは……メッセージアプリのグループかな? メンバーは藤宮さんと奈央ちゃんか。えっと……NOで。


 ブブッ


 うわ、また来た。はぁ……わかったよ。YESね。


『こちらタイガー1 。オーバー? 目標を肉眼で確認。これより尾行を開始するわ』

『こちらタイガー2だよ。目標付近の監視カメラの映像は把握済みだよ!』

『こちらタイガー3。対象の自宅をロックオン』


 この三人は何をやってるんだろう?


『ねぇ、さっきから対象とか目標とかなんの事?』

『昨日の男よ』

『武田さんだよ。お父さんのスマホ見て住所調べたの』

『ていうか学校は?』

『お腹が痛かったのよ』

『頭が痛かったんだ〜』

『歯にタマネギのスジが挟まって取れなかった』


 要するにサボりだね。


『サボってまでなにしてるの?』

『拓真、私に任せて。きっとなにか弱みを握ってみせるから。これが上手くいったら結婚しましょうね。あら? 誰かこっちに来たわね』


 それ上手くいかないフラグだよね。


『拓真くん。奴にはなにかあるはず。ボク頑張るから、後のことはお願いね。あれ? ネットワークエラー?』


 それもうダメな時だよね。


『たっくん。今、おまわりさんにお姉ちゃんの番号聞かれた。なんか着いてきてだって。お菓子貰えるかも。ちょっと行ってくる』


 補導されてるじゃん。そりゃそうだよね。平日のこんな時間からウロウロしてたらそうなるよ。日高さん、僕は悪くないからね。そこんとこよろしくお願いします。


「赤坂くん、今日日直だよぉ〜? 先生のところにいかないのん?」

「あ、野村さん」

「そそ、委員長の野村さんだよん♪ その野村さんが今日の日直さんに日誌を渡しにきたのデスッ♪」

「そっか。ありがとね」

「いえいえ! と・こ・ろ・で…………赤坂君、赤坂君のお母様は父様のことを何か言っておりましたでしょうか? 父様に言われたのです。何か失礼な態度は無かったかを聞いてこいと」


 びっくりした。いきなり素のお嬢様喋りにならないでよ。


「大丈夫。何も言ってなかったよ」

「そうですか。それは良かったです。……ほらほら赤坂く〜ん? 早く行かないとチャイム鳴っちゃうゾ?」



 ……野村さん、そのキャラ疲れないのかな? まぁ、僕には関係ないからいっか。

 さて、和野先生の所に行こうかな。


「失礼します」


 そう言って職員室に入ると真っ直ぐに和野先生の元に向かう。


「先生、プリント取りに来ました」

「……え? あ、うん。今日の日直、赤坂君だったのね。じゃあコレ、よろしくね」

「はい」


 渡されたプリントを持って立ち去ろうとしたけど、そこで先生の肩に何かが付いているのを見つけた。なんだろ? 綿かな? 忙しそうだし、取ってあげようかな。

 そう思って腕を肩に伸ばした時、


「っ! イヤっ!」

「!?」


 怖がるかのように過敏に反応して僕から距離をとる和野先生。その拍子に手に持っていたペンも床に落ちてしまっていたわ、


「あ……ち、違うの! ごめんね赤坂くん。なんでもないの。ほんとにごめんなさい……」


 別に先生は何も悪いことしてないんだから、そんなに謝らなくていいのに。

 そう、ね。

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