第12話 大・爆・発!!

 そのあと、順調に体力測定は進んでいった。

 垂直跳びで渡瀬さんがエビのように反り返って跳ぶ姿。藤宮さんが懸垂で胸に邪魔をされて男子には好奇の目、女子には嫉妬の目をむけられている姿。和野先生が僕が貸したジャージを返してくれなくて、時々匂いを嗅きながら「んんっ!」って唸ってる姿。


 うん。実に順調に進んでるね。


「はい、記入した用紙集めるから先生の所に持ってきてね〜」


 そして全てが終わり、記入した用紙を和野先生に渡す時に何かメモを渡された。なんだろう? ジャージを返して欲しかったら言う事を聞け的な事でも書いてあるのかな? そう思ったけど、そこには小さな文字で『ジャージありがとう。凄く助かったよ』とだけ書かれていた。


 なるほど。これがギャップ萌えってやつなんだね。だけどありがとうって言う割にはまだ返してくれないんですね。まぁ今日は寒くないからいいんだけど。


 で、そろそろ全員が終わるって時にちょっとしたトラブルが起きた。

 どうやら藤宮さんが倒れたみたい。

 和野先生が先生らしさを発揮してすぐに介抱に行ったんだけど、どうやら貧血みたい。和野先生は藤宮さんを抱えて保健室に連れていこうとしてる。だけど女の人の一人の力では大変そう。だけど誰も助けようとしない。女子も男子も。


「先生、手伝います」

「赤坂くん……」


 だから僕が藤宮さんを抱っこした。藤宮さんは横になってたからしょうがなくお姫様抱っこみたいな感じで。ほら、一応面識あるし少しだけだけど話もしたからね。ほら、こういう姿をみてカッコイイって思ってくれる女子もいるかもしれないし。いないかもしれない。出来れば彩音さんに見て欲しかったけど休みだからしょうがないよね。


「保健室に運べばいいんですよね?」

「え? あ、うん。お願い。──はい、他のみんなは時間まで用具の片付けして。チャイムが鳴ったら教室に戻るように。先生は藤宮さんについていくから」


 保健室まで歩いている途中、僕に抱っこされながら青い顔をしていた藤宮さんが薄く目を開ける。


「怜央……きゅん?」


 違うよ。だけど今はそれでもいいかな。具合悪そうだし。体凄く柔らかいし。


「赤坂くん。今、ドア開けるわね」


 保健室の前に着くと、両手の塞がっている僕の代わりにドアを開けてくれる和野先生。僕に対するいつも頭のおかしい言動が嘘みたいに頼もしく見えるし、ちゃんと先生している。別人なんじゃないかと思ってしまいそうになるよ。


「保健の先生は今はいないみたいね。今内線で呼ぶから、赤坂くんは藤宮さんをベッドに寝かせておいて貰える?」

「わかりました」

「お願いね。────あ、もしもし。はい、和野です。保健の三浦先生をお願いします。──あ、三浦先生ですか? あのですね…………」


 ……え、ほんとに誰? 生徒に向かってちゅきちゅき言ってる人はどこに行ったの?


「ん、んん……」


 おっといけない。そんなことよりも早く藤宮さんを寝かせてあげないと。


 空いてるかどうかを確認する為に適当にカーテンを開けると、見たことの無い一人の女子生徒が寝ていた。しかも不自然に布団が盛り上がっていて、モゾモゾと動いている。


「…………」

「…………えっと……なに?」

「いえ、すいません。空いてるベッドを探してたんです」

「そうなんだ。見てのとおっ……りぃ……ここにはあーしが寝てるっ……かっ……らぁ……(ちょ、ちょっと!? 動かないでってばぁ!)」


 シャッ


 どうやらカーテンの向こうは薄い本の世界に侵食されていたみたいだ。部分転移かな? きっとそうだよ。そうにちがいない。そうじゃないと心が痛いよ。


「よいしょっと。うん。これでもう大丈夫かな」


 三つ目のカーテンを開けてようやく誰も寝ていないベッドを見つけた。二つ目には女の子同士が寝ながらキスをしていたのでそっと閉じたよ。百合に男は混ざってはいけないからね。


 ベッドに横になった藤宮さんを見ると、さっきまでよりは顔に赤みが出てきたみたい。だけど少し苦しそう?


「ん、んん……うぅ……」

「藤宮さん大丈夫?」

「ん……あ、拓真くん……。ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」

「なに?」

「あのね? ボク、ちょっと胸が苦しくて……。手に力が入らないから、代わりにブラのホック外して欲しいの」


 君もか。君もなのか。なに? 今日はホックの日なの?


「僕、男だけど?」

「拓真くんならいいから……ダメ?」


 はぁ、そんな悲しそうな顔で言われたら断れないじゃない。


「わかったよ。後で騒がないでよね」

「そんなことしないよ? ありがとう」

「じゃあ後ろ向いてくれる? 僕、そういう経験ないから少し手こずるかもだけど」

「あ、ボク、今日のブラはフロントホックなんだ。だから……はい。シャツの中に手を入れていいから」


 今日はフロントホックの日なの!?

 こんなことある? それに藤宮さんの胸って和野先生よりも大きいから絶対触る事になっちゃうよ!


「ね? 拓真くん。早く……来て……」


 デジャブ。一時間前のデジャブ。

 こ、これはどうすれば……。


「はい、藤宮さん? 男の子にそんなことされたらダメよ? 先生が外してあげるからね」


 助かった。助かったけど和野先生、貴女さっきそれを僕にやらせようとしましたよね? 未遂でしたけど。


 僕がそんな事を考えていると目の前では和野先生が藤宮さんのシャツの中に手を入れる。

 そしてパチンッ! って音が微かに聞こえたかと思うと、爆発が起きた。


「やぁんっ!」


 これは決して大袈裟な例えじゃない。

 ほんとに爆発だったんだ。ホックが外れた瞬間にプルルルルルンッ! と胸が暴れたんだ。

 まるでブラジャーは拘束具だったとでも言いそうなくらいに。


「んっ……はぁ……楽になったぁ……」


 僕はそこで視線を隣にうつすと、そこには小さな声で「か、勝てない……」と呟く和野先生がいた。


 うん。これは無理ですよ。先生はネット売りオレンジですけど、藤宮さんは最高級メロンですから。


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