第17話 キュン!トクン!ズキュン!

「正座? どうして? そんなに真剣な内容なのかしら? まぁいいけど」


 思ったよりも素直に正座する渡瀬さん。背筋をぴんっと伸ばしていて実に綺麗な正座。少し小さめのブラウスを着てるせいなのか、そこまで大きくない胸を張ればチラリとおなか。そしてズボンの上から青いパンツが少し見えちゃった。あと生地が薄いせいなのか、ブラの模様も。


「え〜……ボク正座苦手なんだよね。体起こすと胸が重たくて前にひっぱられる感じがするの」


 そう言いながら正座する藤宮さん。胸を張るとプルンと揺れる。何が? 僕に聞かないでよ。見ればわかるでしょ? おっぱいだよ。

 だけどどんどん藤宮さんの体は前に倒れていき、テーブルの上にタプンと胸が乗った。開いたVネックカットソーの胸元から見える胸がプルプルと震えている。『ボクはわるいおっぱいじゃないよ』とでも言いそうだね。


「はぁ〜ラク〜」


 あーうん。もうそれでいいかな。ほんとにラクそうだし。大きいと大変なんだね。


 そして奈央ちゃんも僕の隣で正座する。正座しながら藤宮さんの胸を凝視して、同じように前に倒れていく。何をしているんだろう?


「んっ……! 奈央じゃ乗せるの無理だった……。でも、先が擦れてなんだか気持ち……いい?」


 ナニをしているんだろう? うん。気にするのはやめておこう。あと、一人称を統一してくれないかなぁ。


 ま、それは置いといて……。


「ちょっと三人に言いたい事があるだけど、まずはコレを見て」


 さっき買った(買わされた)怜央アクキーをテーブルの上に置く。


「「「あ、怜央きゅん」」」


 ハモらないで。


「そう。これは君達が【彼氏】と読んでる獅虎怜央だね。ここで一つ質問なんだけど、【彼氏】とはなにかな?」

「私の生死を握る存在」

「ボクの全て」

「オカズ」


 うん。みんな頭おかしいね。最後は特におかしいね。


「なるほどね。それで君達はその彼氏を寝盗られたって言ってるけど、違うよね? だってこれはゲームのキャラなんだもの。だからNTRじゃないよね? とんだタイトル詐欺だよ」

「そ、それでもっ! 怜央きゅんは私を救ってくれたのよ! それを彩音は知ってるはずなのに! だからこれはNTRなのよ! ……タイトル詐欺って?」

「そうだよ。ボクがこうしていられるのも怜央きゅんのおかげなんだ。だからボクは怜央きゅんに全てを捧げる義務があるんだよ! その怜央きゅんと一緒に寝起きする権利を奪ったんだからNTRだよ! ……タイトル詐欺って?」

「ちょ〜〜〜イケボ」

「タイトル詐欺は気にしないで。こっちの話だから」


 これはアレだね。拗らせ過ぎてNTRって勘違いしてるパターンだね。まぁ、本人がNTRって言っているのならそうなのかもしれないけど。付き合ってもいないただの片想いの相手が他の誰かと付き合った、っていうただ単に主人公がヘタレで告白出来なくてそうなっただけでNTRって表現してる作品もあるから、正解なんて存在しないようなものだし。


 それにしても……一応みんな怜央きゅんが現実には存在しない人って言うのは理解しているみたいだね。渡瀬さんと藤宮さんは昔なにかあったのかな? 二次元のキャラにでも縋らないといけないような事が。

 奈央ちゃんは軽いね。ヘリウムより軽いね。


「そうだとしても渡瀬彩音さんは悪くないよね? 早い者勝ちの勝負でみんなが負けただけだよね?」


 僕がそう言うと三人とも口をつぐんで黙ってしまう。だから更にそこで追撃をかける。


「だから復讐なんて考えるのはやめようよ。もし、そのゲームがサービス終了とかになったら全部無駄になるんだからさ」

「「「!?」」」

「だから──え?」


 そこまで言って僕の口は止まる。何故なら三人とも顔面蒼白になってカタカタ震え出したから。


「サ、サササササービス終了……怜央きゅんが……怜央きゅんが消えるるるる……」


 渡瀬さん、瞳孔開き過ぎ。頭かきむしらないで。ホラーだから。それホラーだから。


「38万円が……アルバイトで胸を強調した制服を着て店長に『そんなに大きいと肩こらない? 支えてあげようか?』って言われながら頑張った38万円がががががが……」


 ふ、藤宮さん!? まさかバイト代全部課金したの!? そしてそんなバイト先すぐに辞めないとだめだよ!?


「あばばばばばばば」


 奈央ちゃん白目剥かないで! 怖い怖い怖い!


 うわぁ。末期だよこれ。もうどうしようも無いよ。ここまで入れ込んでるとなると、とかも無理だろうね。やれやれだよ。


『うわ、めっちゃ可愛い子達じゃん』

『マジだ。だけど相手の男一人じゃね? 女は三人なのに』

『しかもなんかつまんなそーな奴』

『不公平だわーマジ不公平でムカつくわー』


 突然聞こえて来たそんな男の声。

 え、何? そんな羨ましい人いるの? 許さない。一人見つけるだけでも大変なのに三人も? それは罪だ。そんな男ギルティだよ。


 って今は買い物の途中だったや。奈央ちゃんの布団とか買わないと。この二人は……放っておこう。


「じゃあ僕達は買い物があるから行くよ? 行こう奈央ちゃん」

「あばば?」


 ちゃんと喋って。

 そして僕達が立ち上がると渡瀬さんと藤宮さんも立ち上がる。あ、動けるんだ。良かった良かった。

 さぁ安心した所で布団やご飯、その他諸々を買いに行こう。


 …………なんでこの二人はついてくるんだろう。

 寝具売り場にも奈央ちゃんの夕飯と明日の朝食を買うために来た食品エリアにも。何か話す訳でもないのについて来て何か買ってる。寝具売り場ではパジャマを。食品エリアではお菓子とジュースを。まぁ、きっと偶然だね。


『おいあいつら布団買ってんぞ』

『しかも一組? 四人なのに?』

『今夜はお楽しみってか? うっぜぇ〜』


 ん? さっきも聞いた声だ。そのけしからん男も近くにいるんだね。それにしても四人で一組の布団っていったいどういう事なのかな? どれだけ重なって寝るのかな? ユルサナイ……。



 で、ショッピングモールを出ても二人は僕と奈央ちゃんの後ろをついてくる。大通りを通っても脇道を通ってもついてくる。さすがに怖いんだけど。

 さすがにちょっと一言文句を言おうとすると、目の前にチャラそうな男A、B、C、Dが現れた。

 なんだろう? もしかして定番の【ちょっとそこの坊主、女だけ置いてさっさと行きな】ってセリフを言われるのかな?


 そう思ったのに、男達は何も言わないでいきなりズンズンこっちに歩いてくる。

 チャラ男Aは渡瀬さんに向かって手を伸ばしたから、その手首を掴んで捻り、地面に叩きつけて肩を外してあげる。


(キュンっ!)


 チャラ男Bは藤宮さんの胸を触ろうとしたから、膝を正面から蹴って逆に曲げると下がってきた顔に膝を当ててあげた。


(トク……ン……)


 チャラ男Cは奈央ちゃんに向かってタックルしてきたので、後頭部目掛けて踵を落として地球を抱き締めるチャンスをあげた。


(ズキューーン……)


 残ったチャラ男Dは近くにあった角材を持って僕に向かって振り下ろしてきたので、右足をその角材に絡ませて奪い取り、左足で側頭部を蹴り飛ばして壁の一部にしてあげた。


 なんだろう。通り魔かな。それにしても──


「あー怖かった」

「「「…………」」」


 ん? 三人ともどうしたの?


(((…………ポッ)))


 んん?



──こちらの作品、カクヨムコン7に応募しています!面白い!もっと読みたい!応援してます!と思ってくれましたら、作品作者フォロー、星評価お願いします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る