第25話 彼氏のフリ

 次の日、学校に向かって歩いているといきなり腕をは引っ張られて脇道に引きずり込まれた。場所といい状況といいなんかデジャブ。

 そしてその先にいたのはやっぱり渡瀬さん。


「おはよう拓真。いえ、ダーリンってよんだ方がいいかしら?」

「やめて」

「ハニーって呼んでもいいのよ? それか美織、肉奴隷、ミオリン、みーちゃん、ブタ、どれでも好きに呼んでいいのよ? だって私達は恋人なんだから」

「フリだけどね」


 あとなんか変な呼び方混じってなかった?


「…………。さ、恋人らしく腕を組んで一緒に登校しましょう」

「え、いやだよ」

「ど、どどどどして? もしかして胸? 胸の大きさが理由なのね? 私に腕を組まれてもそこまで感触が伝わらないと思ってるのね? それなら大間違いよ。確かに私はCカップよ。だけど……今日はノーブラよ?」


 ノーブラだから感触がダイレクトに伝わるとでも思ってるのかな? ほら、制服が邪魔してるじゃないか。

 そんな事を思っていると渡瀬さんの後ろから藤宮さんが現れた。そうか。二人とも同じマンションだから一緒にいてもおかしくないもんね。


「拓真くんおはよっ! 起きてからすぐにメッセ送ったのに既読付かないから寝坊してるのかな? って思わず住所調べて起こしに行くところだったよ〜」


 怖い怖い。やめて。そして朝の通知16件は藤宮さんからだったんだね。


「おはよう藤宮さん。僕の家はちょっと見つけにくい所にあるから大丈夫だよ」

「大体の位置はGPSでわかってるから大丈夫だよっ!」


 それ全然大丈夫じゃないのわかってるのかな。


「というわけで……ボクも拓真くんと腕組んで学校行きたいなぁ〜?」

「え、やめて」

「大丈夫だよ。さっきのミオリンの話聞いてボクはもうノーブラにしたから。ほら」


 そう言ってカバンからメロン専用カバンみたいな大きさの水色のブラジャーを出して僕に見せてくる。

 いつの間に外したの? こんな道端で外したの? 頭大丈夫?


「だ〜か〜ら〜……えいっ! どう? 制服越しでもボクの胸の感触伝わるでしょ?」


 確かに伝わるね。むしろ僕の腕が埋まってるね。まるで水風船みたいだ。


「あ、もしこれでも伝わらなかったら直接挟む? 待ってて。今ボタン外して直接拓真くんの腕挟んでからまたボタンするから」

「それはやめて」


 二人とも何を考えているんだろう。ノーブラにブラウスなんて……もしブレザーが少しでもズレたら透けて大変な事になるのに。


「わ、私もそれするわ! 待ってて。今ボタンを──」

「だからやめて」

「そんな……だってそうでもしないと伊月のその質量には勝てないじゃない」

「勝ってどうするの?」

「そ、それは…………えへへ。そんな事言わせようとするなんて拓真ってば……えっち」


 うわぁ……。そこまでして彩音さんに復讐しようとするなんて外道だね。


「そもそもなんだからそこまでしなくてもいいんじゃない?」

「「彼氏のフリならこれくらい普通だから」」


 ……なんだって? これが普通? 僕は彼女なんて出来たことないから知らないけど、女の子はこれが普通? ならもし僕が彩音さんと付き合えたらこれ以上の事をして貰えるってこと? 恋人って凄い……。


「たっくん」


 ん? この声は……


「あ、奈央ちゃん。おはよう」


 いつの間にか僕の後ろには奈央ちゃんが立っている。そして二人に抱きしめられている僕の両腕を見ると、おもむろにスカートをまくって僕によじ登ろうとしてきた。


「待って奈央ちゃん。何をしようとしてるの?」

「奈央はおっぱい無い。もう奈央には太ももしか残ってないから、肩車してもらってたっくんの顔を太ももで挟むしか……あ、あ、あぁぁぁあぁぁぁぁっ!」


 ちょっといきなり奇声上げないで!?


 ダメだ。これは話題を変えないといけない。だから僕は抱きられた腕を力任せに引き抜く。


「んぁんっ!」


 スポっと抜ける。


「やんっ!」


 フニョニョンと抜ける。効果音でわかる質量の差。


「そういえば今日は三者面談だね」

「「…………」」

「……?」


 話題を変えるために言った一言で全員が静かになって固まってしまう。どうしたんだろう? 藤宮さんはまぁ、わからないでもないけれど。奈央ちゃんは転校してきたばかりだからよくわかってなさそう。

 ただ、渡瀬さんの顔色がひどい。少し青くなっているようにすら見えるんだよね。


「渡瀬さんどうしたの? 大丈夫?」

「……え? えぇ、大丈夫よ……」

「そう。藤宮さんは?」

「ボクの家は……お母さんが来るんだけど……」

「……え?」


 あのクソ女が? なるほど。外面だけはちゃんと取り繕うタイプなんだね。少しずつ家族仲が良くなったとは言ってもそう簡単に上手くいくわけないからね。


「あの件から物凄く溺愛してくるようになってその……一緒に寝ようとしてきたり一緒にお風呂入ろうとしてきたりするんだよね。この前も買い物行ったら全身コーデ8着分と、下着もボクのサイズだと高いのに上下で10セットも買っちゃったりして……。だから面談でなんて言うのかちょっと不安なんだよね」


 仲良くなりすぎじゃない? 誰かと中身変わったんじゃない? それ誰?


「いいな……」

「ん? 渡瀬さんなんか言った?」

「いえ、なんでもないわ。三者面談なんて所詮親の【自分がどれだけ良い親か】を自慢する為の場所でしょ? 私達のことなんて考えてないのよ」

「ミ、ミオリン?」

「……ごめんなさい。なんでもないの。気にしないで。行きましょう」


 そう言って僕の背中を押す渡瀬さん。それに合わせて歩き出すけど、手は背中から離れない。離れないどころか制服を強く握られている気がするんだよね。シワになるんだけどなぁ。


「…………ねぇ拓真。私、怖いよ……」

「…………」


 ──渡瀬さんの面談の時間は何時なのかな? 僕とはクラスが違うからわかんないなぁ。和野先生なら知ってるかな? それと僕の母さんはちゃんと時間通りに来てくれるのだろうか。


 と、そこで隣の藤宮さんが僕の袖を引っ張ってくる。


「なに?」

「あのね拓真くん、ノーブラだと凄く揺れて擦れて痛いの。どうしよう?」


 そんなの知らないよ。

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