16:ホームパーティーという名の交渉

「「ホームパーティー?」」


 アリスが唐突にホームパーティーを開くと言ってきた。日本人に馴染みのないホームパーティーという文化、核家族化が一般的になった日本では人付き合いというものが希薄になっている。つまり、家に人を呼んでパーティーするというのが不思議に思えるのだ。


『それにしても唐突だな、まだまだ引っ越してきて間もないのにパーティーとは』

『お父さんがお友達に自己紹介したいって! 過保護なんだよね』

『日本人の想像するパーティーってのはレストランを貸し切ったりするものだからなぁ、やっぱり違和感が高いんだよ』


 欧米圏では集合住宅というのは珍しい、一部の貧困層以外は基本的に一軒家に住んでいる。隣の芝生は青く見えるという言葉があるようにホームパーティーは自分の庭を見てもらう品評会。これだけ綺麗な庭にしましたよ! どうぞ見に来てください!!

 そうだな、例えるなら日本の月見酒、花見酒と同列。だから芝見酒ってか?


『このみちゃんも連れてきていいかい?』

『もちろん! 人は沢山呼んだ方がいいからね』


 そうなれば軽く食べられるお見上げ品を用意しなければ、酒類は父さんが断酒したから持っていけないし……無難にチョコレートでいいか? 日持ちする。


『教会でお祈りをした後に準備するから……三時頃に来て! お父さんのBBQは凄く美味しいのよ!!』

『はは、それは楽しそうだ』

「呼ばれたら参上しないと廃るわね……行くわ!」

「結衣ちゃんが行くならわたしも」


 日曜日のホームパーティー、いつものイベント。



 日曜日の四時、オーグレーン家のホームパーティーにお呼ばれしてBBQや北欧の料理を楽しんでいる。外の人達はね?

 俺というとアリスのお父さんに強引に連れて行かれて書斎にテーブルと椅子二つ、置かれているのはコニャック、そういえば強引に飲まされるんだよね……。


『やあ、アキヒロくん。娘からは色々と聞いているよ』


 オーグレーンさんが語る言葉はスウェーデン語ではなくイタリア語、私は試していますよと言っているようなものだ。それにしても訛りが無い。どこで学んだのか不思議になる。


『ええ、自分の語学力が彼女に貢献出来て嬉しい限りです』

『仕事の都合での唐突なものでね、長期的な移住になるから連れてきてしまったんだ。それにしても、ドイツ語も訛り一つ無い。いや、ドイツ語は常時訛って聞こえるものだが』


 仕返し代わりにドイツ語で応戦してみるが聞き取ってきた。この人はスウェーデンの諜報員か何かだろうか? 少し昔に見た記事で日本は各国のスパイ激戦区だとか、もしかしたらアリスのお父さんは諜報員なのかもしれない。


『お酒は飲めるかい。それなりの酒だ』

『未成年ですよ、それともロシア語を使っているから飲めると思ったんですかね』

『ふふっ、飲まないと君が男色家だと娘に言ってしまうよ』

『それは怖い』


 この人は腹の中が本当に読めない。世界各国の言語を平然と使いこなし俺という存在の底を探ってくる……。

 ショットに注がれる琥珀色の酒、互いにそれを持ち一気に流し込む。


『もし、娘が暴漢に襲われていたら助けてくれるかい?』


 ショットに酒が注がれる。それを飲み干してボトルに手を伸ばしオーグレーンさんのショットに酒を注ぐ。


『助けますよ。自分の持てるすべてを使って……なんなら相手の武器を鹵獲する算段まで付けて……』

『それは頼もしい』


 オーグレーンさんが自分のショットを飲み干して俺のショットに酒を満たす。

 雰囲気はさながら洋画、酔いを使って相手から情報を引き出していく。

 鋭い眼光と見定めるような瞳、一回の会話で変化する言語。

 底が知れない、この人も俺も……。

 ショットを空にする。


『場所は森林、護衛対象は幼い少女。相手は武装した謎の組織、君はどう攻略する?』

『そうですね……獣道の上に少女を配置して小石を投げ続けて貰います。その音を聞きつけた兵士を撃破して武器を鹵獲、防弾チョッキなどを着ていれば護衛対象に装備させます。護衛の場合、最優先するのは護衛対象の命、戦う人間の命は不問です』


 ボトルを手に取りショットに注ぐ、少し溢れた。回ってきたか……。

 ショットを飲み干して……次のかいわにい行する……。


『どうして……ひっ……幼い自分にそんな話しをするんですかね……?』

『いや、僕は君が娘と同い年には見えない。だからこんな会話をしているんだ』

『しょれはしょれは……きゃほぎょへふね過保護ですね……』

『だが、酒の強さは年相応のようだ』


 やめてくれるかと期待してみたがショットにしゃけがにゃがれていく酒が注がれる。これではある意味で尋問にもかんじられ……る。

 ショットを手にとってくひに流す。

 そしてぶるぶるするてでぼちょる震える手でボトルを握りしょしょぐ注ぐ……。


「あなたは……なにをしてほしいのですか……」

「簡単だね、僕の死角で君が娘を守って欲しい」

「かほぎょすぎますよ……にへんはへいやたいきょく日本は平和の国……」


 からだがまわる。

 にのんごいがい日本語以外つかわれちゃらはいちぇいたばろう吐いていただろう……。


「やり過ぎたようだ。兄のマネをしたんだが……子供にすることじゃないね……」

きゃいがい海外だとぎゃくちゃい虐待うったへられれまふよ訴え……」


 たがいのぎゃらふにしゅあけがほほがれふ互いの硝子に酒が注がれる……。


「……君は護衛対象をどれだけ守れる?」

ぶっひへきなへんじょ物資的な援助しょふりょうやみふ食料や水せっひ設置をひてくれちゃら……いっかげつ……」

「気に入った」


 互いにショットを空にした。

 意識が遠のいていく。



 目が覚めると芝生の香りと人肌を感じた。まだまだアルコールが残る体を強引に叩き起こし人肌の主を見てみると我が愛しの妹様であった。ああ、女神……!


「お兄ちゃん大丈夫? すごく……お酒臭いけど……」

「ん、ああ……ちょっとハードボイルドを楽しんだんだ」


 頭を掻いて綺麗に整備された庭を見渡す。本当に欧米人の庭に対する情熱は常軌を逸している。もちろん素晴らしいという意味でだ。

 ポケットを確認すると一冊のメモ帳、物資の設置場所などを記した地図だ。

 これは他人に見せられない。


「このみちゃん……楽しめたかい……?」

「うん。でも、結衣さんとさくらさん、アリスさんはお兄ちゃんが独り占めにされてて少し怒ってたかな?」

「それはそれは、罪づくりな男になっちゃったねぇ」


 もう一度、妹の膝を借りて目を閉じた。

 強い酒飲ませすぎだよ……。


「何寝てんのよ! アリスが寂しがってるわよ!!」

「それは結衣ちゃんの方じゃ?」

「う、うぅ……新しいお肉焼けたから早く立ちなさいよ!」

『アキヒローお父さんのお肉美味しいよー』


 実感する。ハーレムって面倒くさい部分もあるんだよね……。

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