バッティングセンター
数日後には林間学校が行われる。
正直な話しをしてしまえば一ヶ月間の山籠り生活を達成したのだ行かなくてもいいのではないか? それに付け加えて妹の精神状態が予想以上の乱れを見せている。このまま行事とは言っても……。
バッティングセンター、お散歩ルートに存在する古めかしい施設。そこからは快音が響き、盛況しているようだ。
ポケットの中を確認してみる。自販機で購入したスポーツドリンクのお釣りの小銭が大量に入っている。こういう鬱屈とした精神状態の時は気分転換の運動がいいと古来から言われている。
店に入り店主に一礼してから自販機に500円玉を入れる。三枚のコインが出てきてコイン一枚で20球、結構サービスしてくれるお店のようだ。
球速は100~140km、無難に100kmを流して帰るか。
「あら? 明広がバッセン来るなんて珍しいわね……」
「あらら、結衣……奇遇ですわね……」
「なんでお嬢様言葉……まあいいわ。わたしは休憩中、アンタは?」
「小銭があったから少しだけ流しに」
これもイベントなのだろうか? それとも偶発的な……。
この世界はゲームの世界だが、主人公が現れていない状態ならゲームじゃない。そのことを誰よりも理解している筈なのにどうにもしっくりこない。
100kmのボックスが埋まっているので120kmに入り、コインを投入。球はランダムでもちろん左打ち。
一球目はど真ん中、遠くに飛ばすというより流し打つという感覚で、
「うーん、一塁に取られるわね」
「一球目でダメ出しやめてよね」
流し打ちを見事にダメ出しされてしまった。少しばかり打つタイミングが遅くなりファールか一塁に取られる程度、ダメ出しされる理由はわかるが、それでも一球目で打てたことを褒めてもいいだろう……。
二球目は高め、年齢的に高めは手が伸びにくい。それでもギリギリタイミングが合ってピッチャーライナー。
「ピッチャー直撃……怖いわね……」
「高めは苦手なんだよ、許してよ」
そのまま20球すべてに手を出したが快音を響かせることはできなかった。
ボックスを出ると結衣がニッコリと笑みを見せて肩トントンと叩く。煽りに感じるのは俺だけだろうか?
「明広、やっぱり野球やりなさいよ! センスの塊だわ」
「お誘いありがとう。でも、野球以外にやることいっぱいあるから無理」
「監督や中島に早く引っ張ってこいって言われてるのに……」
「野球以外にいっぱいやることがあるのは事実だからさ、一枚あげるよ」
長々と打つつもりはないのでコインを一枚渡して開いてるボックスに入る。すると隣のボックスに結衣が立った。
「勝負! どっちが遠くに飛ばせるか!!」
「本当に勝負好きだよね……」
互いにほぼ同時にコインを投入、結衣が右打ちで俺が左打ち。
勝負はどうなったか? 別に何かを賭けているわけじゃない。どっちが遠くに飛ばせるかって曖昧な勝負、ただ、互いに快音は響いてたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます