1:手探りの新しい世界
俺、いや、私という存在が二番目だということに気がついたのは軽く見積もっても二千年前、ループする世界の中で私は自分が一人の存在から作り上げられた存在だと確認した。
違和感があった。
私という存在の過去を振り返ればある筈の記憶が少しだけ抜け落ちたような、そんな感覚。例えるなら多重人格者が複数の人格を分ける時、主人格にその記憶が共有されないような感覚。
私は長い年月、自分の奥底に眠る最初の自分の存在を確認した。
彼は、いじめと両親の関係によって逃避する自分を作り上げた。それが私、二番目の相沢明広になる。だが、その際に記憶の殆どを譲渡し、まるで二番目が主人格のように飾り立て……。
私は気づかなった。そして、時間の経過によって存在を理解した。
隣にいる糸が切れた操り人形のように眠る彼、彼が本物の相沢明広、私も彼も、彼という存在から作り出された存在。
だが、彼は表舞台に立つ気はない。彼にとって自分という存在は苦痛を与えるだけの悪魔のような、そんな存在。もし、私と彼が幸せな世界を作り上げても彼は覚醒しないだろう。彼は、他人の功績をネコババする程落ちぶれてはいない。それは、私という人格を作り出せるだけ……善人だから……。
多重人格者のもう一人の自分に当たる存在は基本的に悪性、悪いことを平然と出来るし、自己防衛の為なら論理を捨てる。だが、私という存在はそれができない。理屈に則った行動を好む。
――彼が私を作る際に出来るだけ善性、心が清い存在を作りだした。
可能性としてだが、彼も私達と同じようにループしていたのかもしれない。だが、過激ないじめによって『全身不随』になることが確定された世界線の可能性もある。だからこそ、それから逃れる為に私に、そして彼に譲った可能性もある。
世界は残酷だ。
今まで彼の背中を借りて生活していたが、彼に主導権を渡し、情報を集めることに注力した。その結果わかったことは『平行線の世界』と『財団』。
平行線の世界に移行した彼の人生は私が紡いだ物語とは違う結末が用意されているのだろう。最初の彼の結末が全身不随、二番目の核戦争、三番目の先の見えない未来。
だが、私の予感では三番目の人生にも
第三次大戦、第二次太平洋戦争のシナリオを書き上げたのは財団だ。
財団は白人至上主義者の秘密結社、白人種以外を絶滅させる為に作られた存在。歴史は古く、十字軍から続く血脈。宗教を主体にしたテンプル騎士団とは違い、キリストすら黄色人種が作った宗教だとして排除してきた。
ある意味では、白人種だけで作る共産主義を求めた結社。
その規模は世界中のマフィア組織が裸足で逃げ出す程、職員の資産を推し量ればそれはアメリカ合衆国の国債すべてに匹敵する。
――大戦の理由は奴らだ。
奴らが肥大化した極東のアジア人を駆逐する為に戦争を引き起こす。
奴らは共産主義者も社会主義者もすべてを駆使して戦争を起こす。
戦争による人種の減少を引き起こす。
困った存在だ。
だが、彼の世界なら――財団という組織がどう舵切りするかわからない。
アリスの叔父さんの存在は大きい。腕利きの暗殺者として育てられた存在だが、彼との戦闘で記憶を取り戻し、こちら側に付く。もし、姪であり、娘でもあるアリスの第二の故郷、日本に核兵器を使用する程の戦争が起こるなら事前に財団を叩く可能性が高い。そして、戦士として成長した彼を連れていく可能性も無きにしもあらず。
――息子よ、親が引き起こした不幸を許してくれ。
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