18:温水プール
六月の中旬、梅雨入りして毎日が雨粒の季節。
そんな季節に唐突な提案が結衣によってもたらされる。
「プール行きましょ! 温水プール!!」
「藪からスティックだな」
郊外にある温水プールの割引券、契約している地方新聞からの贈り物らしい。一枚で三人、それが二枚あるから六人まで半額で入場できるようだ。
さて、ここで問題が発生する。
「女の子の空間に男の子が入っていいのですかね?」
これに尽きる。
いくら親しい間柄だと言っても女の子のお出かけに金魚のフンをしていいのか?
このイベントははじめての経験なので少しだけ困惑している。もしかして好感度が原因でこのイベントが発生したのだろうか? この世界はエロゲーだが、一応は恋愛シュミレーションに分類されるわけだし……。
「明広くんは大切なお友達だよ! ハブるなんてできないよ!!」
「いや、でも……同い年だからボディーガードにもなれないし」
普通になれるが謙虚を演じよう。
「いいのよ! この湿度で髪がゴワゴワする季節……ストレスが有頂天だわ!! ストレス発散!!」
「……そこまで言うんだったら別にいいけど」
『アキヒロ? なんの話しをしてるの』
日本語で会話していた為、プールに行くことを理解していないアリス。
それにしても……プラチナブロンドがアフロになってやがる、梅雨って恐ろしいなぁ……。
『いや、このメンバーでプールに行くらしいんだ。俺も強制参加、このみも無論連れていく。アリスはどうする?』
『プール!? ……わたし泳げない』
『ああ、極寒の北欧だからなぁ……そりゃ泳ぐ場所は少ないよな……』
その代わり一家に一台サウナがあるらしい。
アリスは少し悩んで頭上に電球を光らせる……どうやって光らせるの!? 俺もやってみたい!!
『アキヒロは泳げる?』
『どうして?』
『教えて! わたしバタフライしてみたい!!』
『いや、そこは無難にクロールからね、ね!』
ヒラヒラ蝶みたいで綺麗な泳ぎ方だからやってみたいのにぃと拗ねる。いや、水泳初心者が真っ先にバタフライ泳ぐとか無理だから、アレすごく難しいから……。
「アリスは大丈夫みたいだ。無論、このみちゃんも連れてきていいよな……」
「本当にシスコンね……ハブるつもりなんて無いわよ!」
「よっしゃぁ!! このみの水着姿!!」
(((……ギリッ)))
どうしてシスコンしたら睨まれるのでしょうか?
2
そして当日。
我が愛しの妹様も付いてきてくれて放課後に水着を買ったり色々と劣情が……。
いやね、お風呂に入ってる時に背中流すっておNEWの水着を着て背中を洗ってくれた時は精通を覚悟したね、お兄ちゃんパワーでどうにかマイサンを押さえつけたけど! 数年後にアレをやられたら間違えなくマグナムリボルバーがタオルを貫通する……。
「それにしても、はじめてのイベントだ……何も起こらなければいいが……」
この世界を繰り返す中でランダムイベントというものは多く発生する。推測ではあるのだが、ヒロインの好感度が一定以上に達していたら発生するような? 前の助っ人イベントはランダムイベントに該当する。それに付け加えて点を取り、無失点で勝利したからこのイベントが追加された可能性が高い。
まあ、公衆の面前で犯罪をするようなバカはいないだろう。普通にプールを楽しめばいいか。
「相沢くん! こっちだよー」
さくらが手を上げて俺のことを呼んでいる。
――小学生にあるまじき巨乳!?
咄嗟に目線をそらす。
女子小学生メガネっ娘巨乳……属性多すぎだろ新島さくら……!
「ど、どうかな? 可愛い水着があったから……」
青を貴重としたワンピース水着、フリルが良いアクセントになっている。だが、それ以上に胸が……。
駄目だ駄目! エッチな目で見ちゃメ!!
「に、似合ってる……でも、目のやり場に困る……」
「え? あうぅ」
互いに目を逸らし合う。非常に気まずい。
――腹部に鋭い一撃が飛んできた。
「あんた! さくらのどこ見てたわけ……ええ!」
「ぽんぽんいたいでち……不可抗力でち……」
「お兄ちゃん大丈夫?」
風呂でも見たがこのみの可愛らしさにスクール水着は反則だ! 小柄で可愛らしくて、実際幼くて……ああ、可愛い……! 犯罪的だ!!
「男って本当に変態! ……あたしのは似合ってる?」
オーソドックスなパステルカラーのビキニタイプ、フリルが各所に散りばめられて可愛らしいという印象が強い。色黒な肌によく似合ってると思う。
「うん、似合ってる。すごく女の子っぽ――ゴハッ!?」
「さーて、アリスはまだかしら」
「ぽんぽんいたいでち……二回目……」
アリスが手を振りながら駆け寄ってくる。
え、何もついてない青ビキニ!? 発育はまだまだだけど逆にそっち系が好物な人間ならヤバイ水着着てるよこの子!!
『叔父さんとサウナ入る時の水着だよ! 似合ってる?』
『あ、うん。なんか、ちょっとね……白人さんの大胆さが凄いと思ったよ』
頭にはてなマーク作ってる。わかってないんだね、その水着は日本人の価値観からしたら大胆すぎるんだよ……。
飛ぶ。
というわけで、当初から予定されていたアリスのための水泳教室。だが、そこにマイラブリーシスターも加わっている。なんでも金槌らしい。いやはや、アリスだけだとやる気60%だが、エネルギー充填120%になっちゃうね!
「バタ足うまいぞー」
『なんて言ってるの?』
『足の動かし方が上手いって褒めてるの』
『やったー!』
アリスのバタ足の練習が終わったらこのみの番、運動音痴なせいか途中で水底に沈んでいく。これは絶対に船には乗せられない……この世界の乗り物は物凄く脆く設計されているんだ。まるで某ゲーム会社のヘリのように……。
この世界で一番信頼できるのは父さんの軽自動車だけ、それ以外は対物ライフルで狙撃されたり、仲間にならないモンスター筆頭無敵の人が現れたりと乗り物が危険過ぎる。
中学二年生の時に向かうコンテナ船なんて自爆装置付けてあるからな……。
「うぅ……泳げないよぉ……」
「浮き輪、持ってきたよ」
「お兄ちゃんなんて大嫌い!!」
「えぇ……」
妹の唐突な反抗期に自分の心が折れる音がする。
水泳の練習なんてほっぽりだして人気のないプールで潜水する。音のない静かな環境、そうさ、俺は水……水に妹なんていない……。
「あ、明広くん……五分くらい潜水してない……?」
「そうね……どんな肺活量してるのかしら……」
「結衣ちゃん! もっと心配しようよ!?」
「だって、試合終了までマウンド降りない男よ。あれくらい出来るんじゃない?」
『25m泳げたー! あれ、アキヒロは?』
水、水はいいな、少し塩素の香りが強いが……。
人間の60%は水、言うなれば運命共同体、
互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う、
人間が水の為に、水が人間の為に、
だからこそ普通に生きられる、
水は兄弟、
水は家族、
――嘘を言うな! 窒息死するわ!!
「妹に言われた大嫌いが俺の心をへし折る……」
『アキヒロー! 25m泳げたよー』
「うん、すごいね……俺は凄くないね……」
シスコンなのに妹に嫌われるなんて……。
「お兄ちゃん……ごめん、言い過ぎた……」
「このみちゃーん!」
(((…………)))
社会的に死んだけど妹の反抗期が終わったからオールOK!
3
プールで満足を通り越して疲れるまで泳いだところで近場のファミレスでかき氷やパフェなどを食べている。俺も久々のストロベリーパフェとカプチーノ(砂糖一本入り)を楽しんでいる。
「やっぱり運動はストレス発散になるわね」
「泳ぎ過ぎて筋肉痛が怖いかな……」
『次は50mだー!』
「元気なこって……」
カプチーノを一口、このくらいなら苦味は感じない。砂糖も投入したからな……中1頃にはブラックも楽しめる……。
このみは俺と同じストロベリーパフェを楽しんでいる。リスみたいに食べて可愛いなぁ……。
「そういえば、秋に林間学校があるのよね」
「そうだね、結衣ちゃんと同じ班になりたいな」
「リンネテンセイガッコウ?」
「なんか殺されそうな活動だな……『ボーイスカウトだよ、泊りがけの』」
『へー』
このみちゃんが寂しそうな目で見つめてくる。学年が違うから参加できないからな、それに三泊四日の結構な長期間。妹に会えない日が四日も……。
ズル休みしていいかな……?
「ズル休みしたら〆るから」
「鯖になった覚えはねぇよ……って、俺の頭の中を読むなよな!」
「明広くん、行事にはちゃんと参加しないと駄目だよ?」
行事ねぇ……林間学校より過酷なサバイバル生活を夏休みの間にやるんだけどね……。
でも、林間学校中は事件も何も起きない。妹の心配をする必要もない。
ある意味ではお疲れさまでした。突破おめでとうって感じのものだ。
「まあ、行けたら行く」
「絶対来ない魔法の言葉使わない!」
本当に行けたら行くなんだよね、怪我したらそんなの参加できないし……。
アリスを見る。チョコレートパフェを美味しそうに食べてる。
これが普通、普通なんだよ……なんで財団は彼女を……。
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