10:残党の自暴自棄
半グレ組織アルタイルは壊滅した。
ヤクザ組織に比べて
街は阿鼻叫喚と表現したらいいだろうか? アルタイルの事務所に大量の警察官が押しかけては出るわ出るわと非合法。
上部下部関係なく摘発される犯罪行為、日本は安全な国だと言われているがヤクザの衰退と共に半グレ集団の線引なき犯罪の増加、はたしてこの国は安全なのだろうか?
線引なきと表現したが、それは壊滅しても続く。
結局のところ反社の人間は一部の例外を除いて学のない食うに困る人間達の寄せ集め、自分の私利私欲を満たす方法が犯罪というリスクを伴う行為でしか果たされない。だから群れて悪事に手を伸ばす。
警察が不甲斐ないと言いたいわけじゃない。警察は頑張ってくれている。だが、警察の頭のいい人物達よりも頭のいい反社の人間が見えない場所を探り当て悪事を横行させる。イタチごっことは言ったものだ。
「人間、追い詰められると選択肢は二つだけ」
懺悔か自暴自棄、今回の場合は自暴自棄が過半数を占めている。
昨日の夜からアルタイル残党の犯罪行為が大量発生、死人こそ出ていないが大怪我を負った人もチラホラと。ダイナマイトを仕入れているような大規模な組織だ凶悪性はピカイチ。ヤクザ組織が自分達を貶めたと思い込んでダイナマイトを投げ込んだり、風俗嬢が他組織に情報を売ったのではないかと街中の風俗店で傷害事件がわんさか。
子供達に何かあったらいけないという判断で学校もお休みだ。
「テレビもネットもお祭り騒ぎ、本当に日本って平和な国なのでしょうか?」
温かい緑茶を入れて一息つく。
誰も小学五年生の幼い男児がこの惨状を招いたとは思わないだろう。アルタイル残党も明広という少年の名前は知っていても、幼い少年が自分達の犯罪行為を警察にリークしたなど微塵も思っていない。
『空港でアルタイル幹部が逮捕されました』
どう足掻いても二十年間は人生を続けなければならない都合上、自分が成さねばならない事以外は頭から抜けていく。そしてパッと思い出してこのタイミングだったかなんて頷くことを繰り返す。
「おはようございます……」
眠た眼を擦る妹が大口を開けてテレビを見ている兄に挨拶を返す。
「おはよう、よく眠れた?」
「うん、昨日体育があったから……いっぱい寝れた……」
「寝る子は育つぞぉー将来はお兄ちゃんより高身長かもな」
自分より20cmは身長の高い兄を見て伸びるかな! なんて目を輝かせている。
明広は目を逸らす。理由は単純、自分の身長とこのみの身長差は埋まらない。このみの最終的な身長は149cm、惜しくも150cmに届かない。逆に明広は最終的に184cm、この嘘をすぐに忘れることを切に願う。
妹はいつものように兄の膝に座り撫でられて笑みを見せる。
(最善の選択肢を選び続けなければ……この笑みは次の人生か……)
アルタイルをこのタイミングで壊滅させないと膝に座る天使が誘拐される。時期はそれなりに開くのだが、明広が中学二年生、それも財団日本支部制圧中に奴らは行動を起こす。父は即座に身代金を払うが食い逃げ、女性としての尊厳も命さえも食い逃げされていく。
この時期に潰しておかないと後々に響く。
先手を打たなければいけない。この世界は後手に回れば即座に理不尽を押し付けられる。常に相手より一歩前に立たなければならない。
「お兄ちゃんどうしたの? ……辛そうな顔してる」
「いや! あの……ちょっと昔のことを思い出してただけさ」
間違えではない。彼にとって未来は過去にもなる。
ここでアルタイルを潰さず、先手を打たなかった場合は妹が殺される。妹を殺さないように立ち回れば狙撃され時が来るまで病院で寝かされる。
これは経験した未来であり過去。
選択を誤った末の
「お兄ちゃんは……まだ寂しいの……?」
「いや……寂しくないよ。このみちゃんが居てくれるから全然寂しくない」
「わたしも寂しくなよ」
「ありがとう」
寂しいのじゃない、悲しい、これが正しい。
彼は知っている。だからこそ寂しいじゃない、悲しい。
選択肢は固定されている。
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