6:紙切れの魔力
お好み焼き・アキの出店日、父の店で豚玉を食べて学校に言って、放課後。
「明広……大きくなって……」
そして見たくもない母が現れる。
ここまでは一緒、結衣とさくらのように何も変わらないといいのだが、なんて思いながら携帯電話で父に連絡を入れて近所にファミレス。
――変わっていた。
母の再婚相手、このみ、そして……どうみても筋者の人間が偉そうにふんぞり返っていた。
「お金を……」
「待って、母さん……そこのおじさんは誰です……」
いつもなら父が最初に対応するのだが、どうにも筋者の目新しさに自分から話しを切り出す。
席の都合上、俺の隣に座るこのみは見たこともない男を見て震えている。
――まさか? そうだとしたら……殺す……。
「私ね、この山下さん一家に八千万もお金を貸してるんですよ! おたくら、宝くじの高額当選したらしいじゃないですか!! ドンと払って貰えませんか」
「そ「払う前に聞かせろ……この子に何かさせたか? それ次第ではアンタの生命を刈り取る準備も出来てる」あ、あきひろ?」
鋭い殺意が辺りを漂い、隣に座るこのみが震える。
小さくごめんね、今から怖い言葉いっぱい使うから許してと告げて筋者、いや、金貸しと睨み合いを続ける。
父さんは筋金入りの小心者、この手の相手には強く出られない。
「ああ、まだなにもさせてませんよ。でも「語るな、耳が腐る」ガキ! 大人に向かって偉そうに語るなよ!!」
「あぁ!! 金の取り立てしてる人間が、金を払ってくれるかもしれない人間に偉そうな態度していいと思ってるのか? 靴舐める程度の態度で対応しろ、紙切れがいっぱい欲しいんだろが――金貸し」
舌打ちを数度繰り返し、睨み合いが続く。
父さんは俺の豹変に震え上がっているが、この手の存在に下手に出てはいけない。出来る限り強行で、そして大きく見せる。そうしないと呑み込まれる。
金貸しは苛立ちを見せながら煙草を咥えて高そうなライターで火を灯す。
震える手、自分より何十歳も年下の子供にメンチで負けている可能性があるのだから頷ける。
「で、クソババア! この子に何もさせてねぇよな? させてたら許さねぇぞ」
「い、いまは……」
「チッ、嘘ついてたら許さねぇからな……」
金貸しは煙草を灰皿に押し込んで睨む。
「で、ボクは払ってくれるですか? 八千万」
「払ってやるよ、ただ――この子はこっちで保護させろ。何かさせるつもりで担保にしてるんだろ? こんな小さな子供を商売の道具にしようとしてる奴らの手元に置かせておけない。それを飲め……」
「ちょっと待って! このみを渡すならもう二千万……こっちにも生活費が……」
「チッ、銭ゲバ共が……子供を売って生活だぁ? 大人として恥ずかしくないのか! ええ、答えてみろよ……恥ずかしくないですって」
小さな沈黙が続き、母親は黙り込む。
俺は母親を睨んで言葉を待つ。
「……このみを裏ビデオに出させてお金にしたいのよね。まだ処女だし、年齢も一桁、本当にお金になる」
「お、おまえ……そこまで落ちたのか……」
「本当に、本当に! 本当に!! ――アンタが母親なのが人生最大の恥だよ」
だが、このみがまだ純潔を保っていることに一安心、震えているこのみを撫でて静かに笑ってみせた。
父さんは一億は流石に多すぎるのではないかという表情を見せるが、紙切れの消費で人の人生を正しく導き得るならそれでいい。
財布の中から一万円札を取り出してヒラヒラとなびかせる。
「こんな紙切れに価値があると思い込んで、本当にこの紙切れは魔力を持ってるよ、紙切れの魔力。この紙切れの魔力で人間は
国が発行し、一万円分の物資と交換できるだけの紙切れ、それに何の価値がある。人の命を救う価値はあっても、人の尊厳を奪う価値はあるのか? 金に縛られ、金に縋り、金を求める。
――滑稽だ。
紙切れに溺れた人間は本当に滑稽だ。
夢だとか、理想だとか、そういうものではない。ただの物欲を満たすだけの行為、それは褒められることだろうか? 素晴らしいことだろうか……。
――人を殺してまで手に入れるものだろうか?
「父さん、小切手で一億、贈与税とかはそっちでどうにかしてくれよ? この子はこっちで保護する。そっちの手に置いてたら何されるかわからないからさ……」
気迫に押されて父さんは小切手を手早く書いてテーブルに置いた。
その瞬間に俺はこのみの肩を叩いてファミレスから飛び出すように出る。
「あ、あきひろ……よかったのか? 父さん名義にはなってるけど、おまえが「いいよ、紙切れで人の命や尊厳を救えるならさ」……そうか」
「えっと、あの……わたしは……」
売られたと思い込んでいるこのみの頭を撫でて優しい笑みを見せる。
「大丈夫、あの人達よりマシだからさ、俺は明広、相沢明広」
「あ、俺は明広のお父さんの明文だよ」
「……山下……このみ……」
「このみちゃんね、あの人達と一緒にいたら危ないから俺達が保護するから安心して」
このみは不思議そうな顔で覗き込んでくる。
愛想笑いするだけしかできないが、それでも救えた事実に胸を撫で下ろす。
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