12:未来であり、過去でもある

 俺が戦闘機乗りになった頃はまだ自衛隊という名前だった。

 そうだ、自衛隊……国を自衛する自警団という枠組みと表現したらいいだろう。

 まあ、そんなの一度戦火が広がれば自警団とは呼べなくなる。

 国防軍、俺がパイロットになって五年後にはその名前が定着した。国民の半数を失った状態だが……。

 戦争なんてのは酷く簡単に起きる。

 最初はヨーロッパから始まった。

 東欧の一国が北大西洋条約機構NATOとの大幅な接近、独裁の無い民主主義を求めたヨーロッパ連合EU加盟を強行したのが発端だ。

 その日、話によるとまだ雪が残る春先にユーラシアの大国は自国民保護の名目で黒海の半島を急襲、この時は大国の奇襲作戦に東欧の一国が対応することが出来ずに領土を実効支配されることになった。

 そして、時は流れた。

 東欧の一国は大国の圧力に一時的に屈し、傀儡政権とも言える政府が樹立、数年間の衛星国としての生活が始まった。

 だが、国民は自国の領土を不当に奪われているという不信感、そして軍人達の愛国心が研ぎ澄まされた刃物のように鋭利に。

 それから数年後、新政権の大統領が衛星国としての立場を不服とし、急激に西側諸国との接近をはじめた。

 大国は仕掛けた。

 東欧の一国に電撃戦を開始し、首都周辺まで迫った。

 だが、東欧の一国は事前に準備したかのように完璧な防衛戦、大国の攻撃を防ぎきり首都を守りきった。

 二日で終わると思われた当時は紛争、今では戦争は西側諸国の注目を集めた。

 戦闘が泥沼になるほどに西側は最新兵器を提供し、当時の衛星国達は大国製の兵器を提供し続けた。

 そして、小国は大国を押し返す。

 奇跡の逆転劇だと世界各国が称賛する準備をしていた。

 ――悪夢の兵器の投入までは……。

 五月九日、大国の戦勝記念日、その日に大国は日本の隣国との密約を重ねていた。

 極秘裏に開発された新型ミサイルを投入し瞬く間に小国の領土を破壊し、最終的に小国は衛星国ではなく、大国の一部として吸収された。

 それから数年後、欧州と同じように日本の隣国が領土を主張する島に宣戦布告、理由は自国の領土を不法占拠しているテロ集団の殲滅だ。

 その島は西側の兵器を積極的に採用し隣国の敗北に終わると言われていたが、新型ミサイルの緩和攻撃で軍人、民間人関係のない無差別ジェノサイドが開始された。そして焦土と化した島を占拠、生き残った島民はテロリストとして民族浄化の対象にされた。

 国際世論は軍を派遣することを決めたが、その時に大国が北海道に進行、駐屯基地に大量のミサイルが飛来し通常戦力の過半数が崩壊。西側は二つの島国に割く戦力が乏しく、戦力が崩壊した島の方に軍を動かした。

 そして、その日……東京に核兵器が落とされた……。

 東アジアのゴタゴタに乗じて半島の戦争が再開、そして西側の国が東側の国の核兵器を鹵獲、そして互いに核を持った半島は休戦に至った。

 ――そして、大国間の密約によって日本の都市に四発の核兵器が使用された。

 名目的には過激派のテロリストが軍施設をハイジャックし、日本に向けて核兵器を使用した。

 テロリストが核兵器を使用する。想定していない事態に各国は報復核を使用することが出来なかった。

 ……これが、俺の未来であり、過去。

 俺はその時、長崎で飛来してくる隣国の戦闘機の迎撃にあたっていた。

 日々撃墜されていく同僚、骨すら残っていないだろう父さん、そしてヒロイン達……思うことはあるが、失敗した先の未来だと噛み締めて軍人としての責務を果たすことだけに時間を捧げた。

 同盟国は重い腰を上げなかった。

 器用に同盟国の基地を外した都市に核を落とした影響で同盟国の国内世論は消極的な姿勢を崩さなかった。

 初期の俺はスクラップ寸前のF-4ファントムで空に上った。

 任務は爆撃機の迎撃、言ってしまえば死んでこいという命令だ。

 編隊が次々と撃破される中、俺は護衛機と戦闘を繰り広げ最後は機銃の弾すら使い切って帰ってきた。

 その時、オタクな整備士が劣勢でも可能性に賭けるのはデュエリスト決闘者みたいだと表現した。それから俺の名前はデュエル1になったわけだ。

 その後は亡命してきたパイロットから譲り受けたミラージュに乗り込み主に爆撃機の迎撃任務の毎日。

 平和というのは安定した状態ではない、本当は酷く不安定で歪な状態。

 平和は歩いてはこない。お互いに歩み寄るしかない。

 だが、それは少しの野心で戦火に包まれる。

 だから、俺は……違う未来を求めている……。

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