17

 一方その頃・・・・


(やっぱり出来ないよ)


 民家の片隅で、膝を抱え震えている少年ザンク。


 周囲の遺体からは大量の血が出ており、雨に混じって広がっている。

 ザンクはそれを見て顔を歪めた。

 


(もう・・後戻りは出来ないんだ)


 突然告げられたチャリー夫妻の命令に従う仲間達に理解が出来ないザンク。

 現在いる民家で隠れるようにしているが、道中にダウトが神獣フェニックスを使い、住民を焼死させている現場を目撃していたザンク。

 普段から仲が良かったが、ザンクは声を掛けることもなくその場から去っていった。


(どうしてだよ・・・・ダウト)


 ダウトが考えている事が理解出来ないザンク。

 チャリー夫妻がどうしてこんな指令をくだしたのかも分からず、ただひっそりと隠れていた。


 ザンクは楽しく暮らしていた施設での暮らしを思い返した。

 出会った頃のよそよそしかった仲間達。

 月日が流れてゆく内に徐々に心を開いて、今ではすっかり仲の良い家族の様な関係だった。

 燃え盛る民家を見つめ、もう戻れないんだと思うと自然と涙が流れていた。

 仲の良かった村の住人の笑った顔が浮かび、大粒の涙を流すザンク。

 普段は陽気なザンクが初めて流した涙だった。


「くそっ!」


 袖で涙を拭い、茂みの方へと向かった。


 あてもなくさ迷うザンクに目的は無い。

 ただ黙って何も行動を起こさず逃げ隠れする。

 疎らに生えた木の木陰に向かった。


 向かう道中、ノックヴィルの住人と遭遇する。


 偏屈で周囲から嫌われているハザトという中年の男性。


 お互いに目が合う。

 ザンクは嫌そうな表情になった。


「お前・・ザンクか?」


 暗い森林で探るように尋ねるハザト。


「う、うん」


 ザンクはハザトが苦手であった。

 高圧的な物言いに、人を見下したりする様子が受け付けない。

 それでも、任務の通り、殺すという発想は無かった。


「あぁ、無事だったんだな?」


 ハザトは小さく笑った。


(この人の笑った顔、初めて見たな)


 小さく会釈をするとザンクは歩き出した。

 一緒にいるのが居たたまれないのと、仲間に見られたくないのが理由。

 

「おい!どこへ行くんだ?」


 問いかけに不安気な表情をするザンク。

 

「・・・どこって・・」


「ここを抜けて少し先に海がある。そこまで走れるか?」


「えっ?」


 頭をガシガシと掻きながらハザトは急かす。


「だから!お前は、村から出てもどこへ行けば良いのか分からないだろ?」


 遠回しに一緒に逃げようと言ってくるハザト。

 普段は寡黙で仏頂面なハザトは不器用な言い回しになっていた。

 

 少し遅れてザンクは理解するが、ザンクには分からなかった。


(何か・・・裏があるのか?)


 勘ぐってしまうザンクの悪い癖。

 今の状況では何も答えを見いだせないザンクは無言でハザトの後ろについた。


「うおっ!!」


 早足で歩くハザトが急に一歩下がってきた。

 ザンクとぶつかる。

 何があるのかザンクが見ると、目を大きく見開いて愕然とした。


「チ、チユ?」


 草むらで倒れているチユ。

 お腹を鋭利な物で刺され、横たわっているチユの姿を見てザンクは駆け寄った。


 肩を揺すり、何度も名前を呼ぶが応答は無い。


(死んで・・・るのか?)


 ごくりと唾を呑み、ザンクは周囲を見渡す。

 チユとハザト以外に人の気配を感じない。


「急いで村から出るぞ?」


 ハザトがそう告げるがザンクの耳には入らない。


 動揺を隠せず、ガクリと膝をつく。

 

「辛いが置いていくしかない」とハザトは言った。


 それも耳に入らない。

 呆然とチユの亡骸を見つめるザンク。


(なんで?・・・誰が?)


 一向に動く気配のないザンクにハザトは駆け寄った。


「お前の気持ちは分かるが今は逃げる事だけを考えるんだ」


 説得するハザトだったが、その直後ーー


「がはっ!!」


 チユの腕が伸びてハザトの心臓を貫いた。

 腕はウネウネと動き、先端が鋭利な刃物へと変化していた。


「ひっ!」


 驚いたザンクは後方へ下がった。








 

 

 



 


 


 

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