3

 時は流れ子供らは15歳になった。


 相変わらず奥手でチユに対して想いを告げられずにいる赤髪の少年スラン。


 そのスランの想いに随分前から気づいているおとなしい少女チユ。


 双子の少年の一人、黒いバンダナをつけたアルミ。


 同じく双子の一人、見分けをつける為に白いバンダナを巻いているスチル。


 無口で無愛想な少年オルガ。


 双子のアルミと仲の良い陽気な少年ザンク。


 腰まで掛かったストレートな銀髪が自慢の少女エリザ。


 挙動不審でいつも周りの目を気にしている小太りの少年キュラミス。


 子供達の中で一番の長身で眼鏡を掛けた少年ダウト。


 エリザと仲の良いふわふわなツインテールの少女メルキィ。



 9歳から6年間、毎日同じ生活を送っている10人の少年少女。

 ここでの生活は快適に思えて息苦しくも感じる者もいた。

 特にスランは、どうしても拭えない違和感を感じていた。

 それはある日、村の少年で一つ年上のレオンと話していた時ー、


「寝る時に入るカプセルが狭くて息苦しくない?」


「どういう事?」


 キョトンとするレオンに首を傾げスランは言った。


「いや、だから、あの空間が狭くて居心地最悪だよなって話しだよ」


「カプセルって何?普通に布団の中で寝るだけだろ?」


 怪訝な顔をするレオンにスランは驚いた。


「布団って何?カプセルの中に入らないの?どうやって寝てるんだ?」


 スランの食いつきに、待て待てといった様子で両手を前に出すレオン。

 それが普通、当たり前と育ったスランにはレオンの言う単語が理解出来なかった。

 布団、枕、ベッドと言った単語を口にするレオンに詳しく探ろうとスランは聞いた。

 不思議そうに食いつくスランを見てレオンも驚いていた。

 

 その日の晩、スランはこっそりマークの部屋に入ろうと考えた。

 入室禁止と言われていて普段は鍵が掛けられていたが、マークの隙を付いてバレないように盗んだ。

 悪い事をしていると重々承知だが、好奇心が勝った。

 勉強の時間、皆が集まった部屋にて、トイレに行くと告げ、その間にマークの部屋へ向かいドアを開けた。


 そこにある光景はスランが見た事の無い物ばかりだった。

 部屋は散乱としていて目に入る物のほとんどが何か分からない。

 レオンの言っていたベッドもある。

 これだと思ったスランは忍び足でベッドへと向かった。

 そっと触って、少しして腰を下ろす。

 ふかふかな感触がスランには初めてだった。

 人が眠る時、これで寝るんだとスランは思った。

 

 それじゃ・・・僕達はどうしてあんな硬くて狭いカプセルの中で寝なくちゃいけないんだ?


 そんな事を考えて俯いていると、


「何をしているのですか?」と言われ、即座に顔を上げるスラン。


 ドアの前にマークが立っていた。


 慌ててスランは立ち上がった。


「あっ、その・・・」


 言い訳も浮かばず言葉が出ない。


「入っては駄目ですよ」


 そんなスランに笑って答えるマーク。

 その表情が不気味に映るスラン。


「ごめんなさ・・・ー」


「鍵」


 言葉を遮り、手を前に出すマーク。


「あっ、はい」


 直ぐに鍵を差し出すスラン。

 マークはニコリと笑った。


 だが、次の瞬間ーー


「二度とこんな事をしてはいけませんよ?」


 そう言って、スランのお腹を全力で殴った。


「うぐっ・・」


 その場に膝をつくスランに「返事は?」と声音変わらずマークは言った。


「はっ、はい」


 こんな一面を見せるマークにスランは恐怖を感じた。

 いつも優しげな笑みを浮かべ、口調も穏やかなマークが殴ってきた事がショックだった。


「早く戻りなさい」


「ご、ごめんなさいパパ」


 恐怖を感じつつ、足早に部屋を出るスラン。


 こんな出来事は誰にも言えないと思う一方、チユはこの部屋で一体何をされているのだろうと不審に思うスラン。

 それをマークに問う事はとても出来そうにない。

 誰かに言ったところでどうしようもない。


 マークのノックヴィル内での評判は、すこぶる良い。

 無償で子供達を引き取り、誰にでも平等に接するその姿が善人に映っている。

 しかしそれは、あくまで表向きの話しである。

スランもマークには感謝している反面、この出来事から警戒心を抱く事となった。







 

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