4
2年の時が過ぎた。
17歳になった少年少女。
思春期の終わりに各々は変化する。
エリザとメルキィは幼少の頃から仲が良く、二人でよく行動を共にしている。
チユはそんな仲の良い二人の間にどうしても上手く馴染めずに単独で過ごす日々だった。
チユとは違う意味で一人を好む者もいた。
誰とも殆ど会話をしない無表情な少年オルガは時間外でもトレーニングをしていた。
淡々とこなすオルガの肉体は、惚れ惚れする程引き締まっている。
「エンドレス」
オルガが告げると、どこからともなく現れた神獣のエンドレス。
名を呼べば即座に出てくる神獣。
声に出して呼ばなくも考えるだけで神獣は召喚可能である。
神獣の名前は幼少の頃に子供らが付けた名である。
オルガの神獣エンドレスは、可愛い見た目をしている。
玉ねぎのような頭とヒョロヒョロな手足、目は少女漫画に出てくるような女の子みたいに大きい。
全身真っ黒なエンドレスはどこか不気味だが、クリクリの目とヒョロ長な手足にギャップを感じる。
エンドレスは両手を前に出し、オルガの拳を受ける形を取っていた。
人型の神獣だから出来る行動である。
常日頃からトレーニングのパートナーとしてエンドレスを召喚するオルガ。
無口でコミュニケーション障害なオルガの性格ゆえ、心を開けているのはチャリー夫妻とエンドレスだけだった。
黙々と一心不乱にトレーニングに励む姿を、周りの少年は気持ち悪がっていた。
何の為に僕らは毎日こんな事をしているの?
そんな事が頭を掠める毎日。
不思議な事はまだあった。
それは勉強の時間である。
毎日、学ぶ勉学が15歳の頃を境に変わっていった。
パソコンに映し出された内容は、人の人体についてだった。
少年少女はこのカリキュラムを強制的に学ばされていた。
人間を殺す方法―
人体を破壊するやり方。
即死や苦痛を与える方法。
そんな事を学ぶ時間が増えていった。
孤児院の子供達の中で、一番の身長だからという単純な理由で皆のリーダーに消去法でなっているダウトも不審に感じていた。
だが、その事をチャリー夫妻に問いかける事はしない。
しないというよりは出来ないでいた。
「毎日本当に良くやるね?」
オルガに話し掛けるダウトだが、当然のように無視をしてトレーニングに励むオルガ。
「相変わらずだね君は」
小さく嘯くその声はどこか覇気が無い。
続けてダウトは語りだした。
「これは独り言なんだけど、僕達はこれからどうなるんだろう?このノックヴィルで一生を過ごす事になるのか、それとも皆バラバラに離れて暮らして行く事になるのかなぁ」
前置きをしつつ探り探りに言葉を選ぶダウト。
「神獣って・・・一体何なんだろうか考えてしまう時があるんだ。この村の人達には付いてないみたいだし、パパやママにも多分いない」
語るもオルガは一向に口を開こうとはしない。
「フェニックス」
ダウトが告げると、ダウトの神獣フェニックスが姿を現した。
その名の通り火の鳥である見た目の神獣。
鳥型の神獣であるフェニックスの羽は、炎を纏いユラユラと揺れている。
フェニックスのクチバシを優しく擦りながらダウトは続ける。
「神獣って何なんだろう・・な」
フェニックスは嬉しそうに笑っている。
「当たり前のように僕らにはこいつがいるけど、それって普通じゃないよな」
「普通って何だ?」
ここでようやくオルガが口を開く。
「普通は・・・普通の人の事だよ」
そう答えたダウトに鼻で笑ってオルガは答えた。
「親の顔も知らない俺達が、こんな訳の分からない村で暮らして何が普通なんだか」
ムッとするダウト。
「何か変な事を言ったかい?」
「普通に憧れているのか?」
「そうじゃない・・そうじゃないけど・・・」
続く言葉は見つからない。
オルガは再びトレーニングを再開する。
暫く無言の間だったが「頑張って」と告げてダウトは部屋から出ていった。
一人になったオルガは、八つ当たり気味にエンドレスの顔面を殴った。
プシューと独特な鳴き声をだすエンドレス。
ダウトが地下から上がるため階段を昇ろうとしていると、双子の片割れアルミがそこにいた。
「盗み聞きかい?」
優しく尋ねるダウトに、食いぎみにアルミは「違う」と言った。
「それじゃ・・聞こえてた?」
尋ねるダウトに小さく頷くアルミ。
二人で階段を昇っていく最中、アルミは言った。
「俺、オルガが嫌いだ」
普段明るいアルミだが、この日のアルミは妙にテンションが低い。
アルミの悪い癖である親指の爪を噛みつつ、続けてアルミは呟いた。
「あいつは僕達を見下してる」
「あぁ、うん。そうだね」
否定しないダウトに少しの笑みを見せるアルミ。
「ダウトは?」
「僕?」
「オルガの事・・どう思ってんの?」
「僕もオルガは苦手だな」
苦笑いしつつダウトは返した。
「やっぱり!皆・・あいつの事は嫌いなんだ」
「そうかもね」
「そうだよ!」
「右腕の調子は?」
話題を変えたかったダウトは別の事を尋ねる。
「いつの話しだよ!もう全然平気!」
そう言って右腕を前に出しダウトに見せる。
「うん。もう殆ど跡が無いね!」
「そうさ!」
アルミは笑って言った。
二人は階段を上り、お互い挨拶をして別れた。
孤児院で暮らしていく中で、少なからず不安や不満を持った者も増えていた。
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