7

 孤児院の少年らが出ていった後、チャリー夫妻は食後の後片付けをしていた。


 お皿を洗いながらカレンは言った。


「ようやく・・ね?」


「ここまで本当に長かったな」


 マークは感慨深く言った。


 子供達は大人になっていく。

 それと同時に成すべき事を伝えた夫妻。


 「私達も解放される」


 カレンはそう言ったが、マークは首を傾げ答えた。


「所詮、我々は雇われだからな。どうだろうか?」


「そ、それじゃ困るわよ!何の為にこんな膨大な時間を掛けて化け物を育てたと思ってるのよ!」


「いやいや、化け物って」


 苦笑いするマーク。


「化け物じゃない!・・気持ち悪い」


「その言い方は良く無いよ?」


 薄ら笑いのマークをカレンは睨み付けた。


「チユを毎晩のように部屋に呼んで、気持ち悪い事してるアンタも十分、化け物だけどね」


 憶測だが確信的な口調で言うカレンだが、マークは頭を掻きながら「まいったな」と言って笑うだけであった。


 暫くの沈黙に、カチャカチャと食器の音がする。


 カレンは苦笑混じりに言った。


「最初・・この星に来た時は本当に驚いたわ」


「何がだい?」


「だって、私達とまるで同じ生活をしてるからビックリしちゃった」


「あぁ・・僕も驚いたよ」


 それからカレンは小さく呟く。


「早く終わって欲しいわ」


「きっと・・上手く行くさ」



 マークがそう返した直後、外から大きな音と悲鳴が聞こえてきた。


「始まったね」


「失敗しなきゃいいけど」


「神獣がいるから平気さ」


「まぁ・・そうだけど」


「大丈夫さ!だってあの子達は化け物だから」


 マークはそう言ってニヤリとほくそ笑んだ。


「アンタも言ってるじゃない」


 鼻で笑ってカレンは言った。

 食器を洗い終え、綺麗に後片付けを済ませるとマークは首を左右にコキコキと鳴らしながら言った。


「スランとエリザの様子を見てくる」


「はいはい」


 気の無い返事を返すカレン。


 食堂を出たマーク。

 カレンは洗い終えた皿をジッと見つめ独り言を呟いた。


「早く・・・・解放されたい」


 今にも泣きそうな表情をするカレンだった。


 マークはスタスタと大広間へ向かい、勢いよく扉を開く。

 ダウトの神獣フェニックスは消えており、スランはエリザを抱き抱えていた。

 それを見たマークは足早にスランに近付いて告げた。


「もう反抗はしないと約束出来ますか?」


 冷淡な声でスランを見るその目は疑いの眼差しであった。


「どうして僕達は・・こんな事をしなくちゃいけないんですか?」


 エリザを優しく地面に寝かしスランは尋ねた。


「それがあなた達の使・・」


「それは聞きました!!」


 遮り、スランは叫んだ。


「・・・では、あなたも向かって下さい」


 口調変わらずマークは告げるがスランは立ち上がり、肩を震わせている。


「使命・・・・って誰の指示なんですか?」


「それは後でお教えします」


 頭をぐしゃぐしゃと掻き、半ば呆れ気味にスランは尋ねる。


「今・・教えて下さい」


 答えてはくれないだろうとスランは思っていたがダメ元で尋ねる。


「事が終わり次第、必ず教えますよ?」


 微笑みマークは答えた。


「はぐらかさないで下さい」


「そんなつもりはないが?」


 一呼吸置きスランは言った。


「何を・・・何か隠してるのパパとママは?」


「隠してません」


 目を細め表情を変えないマーク。

 その笑みを不快に感じるスランであったが、今はこんな風に問答をしている場合じゃないと思った。

 

(どうせ答えてくれない。・・・だったら時間の無駄だ)



「わ、分かりました、い・・行ってきます」


 素直に従う振りをするスラン。

 そのまま出ようと扉へ向かう中、マークは言った。


「もしオルガ達の邪魔をするようであれば、エリザの命は無いと思って下さい」


 脅すマークに振り向き「どういう意味ですか?」と答えるスラン。


「スラン・・・あなたは何も考えずに使命だけを意識して全うするのです」


「何故エリザを人質みたいにするんですか!?」


「お前が使命を叛く可能性があるからだよ」


 スランを睨み付けマークは言った。


「そ、そんな事・・・しません」


 萎縮気味にスランは答えた。


「それなら結構です。エリザは私が看てますので、使命を全うして下さい」


 答えるマークに、やきもきしつつスランは小さく頷き大広間を出た。


 残ったマークは気を失っているエリザをじっと見つめている。

 

「可愛くなったな・・・リーサさんにそっくりだ」


 独り言を呟いた後、マークはエリザにキスをした。

 誰も居ない空間で、気を失っている事をいい事に舌を入れるマークだった。

 舌を入れ濃厚なディープキスを堪能した後、不敵に笑うマーク。


「そっくりもクソも無いか・・・フフ」


 一人ほくそ笑むマークであった。


 スランは走って皆のもとへ向かう。

 勢いよく走りながらも、頭の中は混乱しており、どうすれば良いのかが分からないスラン。

 ただただ、がむしゃらに走るスラン。


 そんな中で遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。

 その悲鳴がスランを余計にパニックにさせる。


「あああ・・・」


 苦痛に顔を歪ませ、スランはフリーラインの入り口の扉を開けた。









 

 




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