8
目の前に広がる光景にスランは唖然とする。
周りの家は燃えており、道端で倒れている者もいた。
駆け寄り声を掛けるスラン。
「だ、大丈夫ですか?」
身体を起こすも応答は無い。
既に息絶えていた。
初めて人の死に直面するスラン。
心拍数が上昇する。
(こんな事を・・・僕達の中の誰かがやったのか?)
頭の中でオルガが浮かぶスラン。
悲鳴や怒号が鳴り響く。
見渡す一面が、ごうごうと燃えており、ダウトの神獣フェニックスの仕業だと認識するスラン。
誰よりも合理的で正しさの模範的な存在であるダウトが、こんな理不尽な事をするとは思えないスラン。
(ダウトが・・・・どうして?)
絵に描いたような優等生であるダウトの行動が信じられない。
亡骸をそっと地面に寝かせ、スランは立ち上がった。
周辺を見渡し、大きな音が響く方へ走りだした。
何をどうすれば良いのか全く分からないスランであったが、このままノックヴィルの住人を見殺しには出来ないという思いで走った。
煙が四方八方から上がっており、匂いもキツくなっていく。
瓦礫で潰れた家の前でスランは立ち止まった。
「はぁはぁ」
呼吸を整え落ち着かそうとするが動揺は隠せない。
我が目を疑うスラン。
夜の暗さもあったが、辺りが燃えてうっすらと確認出来る人影。
大好きなチユがそこにいた。
一面を火で覆われ、血まみれで突っ立っているチユ。
チユが立っている周辺には三名の住人が倒れていた。
この家で暮らしていたであろう住人。
「チ、チユ!?」
声かけに、ゆっくりとスランの方へ首を向けるチユ。
服が血まみれで、返り血なのか負傷したのか分からない。
何も答えないチユであるが、スランに向けて儚げに笑ってみせた。
その表情を見てスランはチユのもとへと駆け寄った。
両肩に手を置き「だ、大丈夫か?」と尋ねるスラン。
チユは小さく頷く。
スランは困惑している。
(チユが・・・やったのか?)
それを直接問うのが怖いスラン。
暫くの沈黙の後、視線を地面に向けるチユ。
周りの悲鳴が大きくなっていた。
壁や家を壊すような衝撃音も酷くなっている。
「とにかく・・ここは危ないから・・行こう!」
スランの咄嗟の呼び掛けにチユは顔を上げた。
「どこへ?」
尋ねるチユは無表情であった。
頬には血が付いていて、スランは袖でチユの頬の血を拭う。
「あっ・・安全なとこに」
答えるスランも自信無さげであった。
「そんなとこ無いよ」
小さく呟くチユを見て、思わず抱きしめてしまうスラン。
力強く抱きしめ震えるスラン。
「痛い」とチユは言ったがスランは離さない。
「ごめん」
謝るも離さないスランに、続けて「痛い」と答えるチユ。
暫く抱きしめた後、チユの手を握りスランは言った。
「に・・・逃げよう・・・か?」
「そんなの無理だよ」
「な、なんで!?」
「私達はあのカプセルが無いと生きてられないから」
答えるチユの表情は穏やかであったが、スランは驚きを隠せないでいた。
「そんなの・・嘘だろ?」
「本当」
「だ、誰が・・・・そんな事言ったんだ?」
「パパだよ」
(パパといつそんな話しを?)
「もし・・・カプセルが無かったらどうなる?」
「それは・・ー」
チユが発すると同時に瓦礫が崩れてきた。
それと同時に火柱が倒れる。
「あ、危ない!」
チユの手を引っ張りスランは走った。
「とりあえずここから離れよう」
ひとまず考えるのを止め、とりあえず走るスラン。
向かった先はノックヴィルの住人で仲の良いレオンのもと。
一つ年上のレオンの家は村の中央付近にある。
チユを連れ、走っている道中、スチルの神獣【モース】が空を飛んでいるのが見えた。
フクロウに似たスチルの神獣は赤い目をしており、ギョロギョロと周囲を見渡していた。
モースが見た物をスチルは感じる事が出来る。
それをスランは知っており、咄嗟に物陰に隠れた。
大きな風車の死角に身を潜める。
「どうして隠れるの?」
焦りを見せないチユにスランは戸惑う。
「いや、スチルが・・・味方か分からないだろ?」
「味方?」
分からないといった表情のチユ。
「と、とにかく今は隠れていよう・・な?」
スランがそう言うと黙ってしまうチユ。
周囲の悲鳴に心臓が高鳴るスランであるが、握ったチユの手を離さずに隠れていた。
ガタガタと風車は揺れ動く。
そんな状況下で背後から子供が声を掛けてきた。
「助けて」と呼ぶ声にスランは急いで振り向いた。
まだ幼く8歳位の女の子だ。
小さな子に、ほっとするスランであったが・・・
「うっ!」と叫んだ後、血を吹き出し倒れてしまった幼い女の子。
血を吹き倒れた女の子の背後では、大きな球体がそこにいた。
それを見てスランは目を見開き、チユの方に視線をやる。
全体が黒く、丸い球体のそれはチユの神獣【マゴノテ】であったからだ。
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