6

 アルミとスチルは誰が見てもそっくりな双子だ。

 親指の爪だけを噛むといった変わった癖まで一緒である。


 首を傾げ、肩を震わせているメルキィを不思議そうに見つめているスチル。


「それでは話しの続きをお願いします」


 ダウトがマークに向かって言った。

 フェニックスは相変わらずスランを咥え、天井で待機している。

 スランが大声で騒ぎ立てているが、遠い為あまり聞こえない。


 マークはいつもの笑顔に戻り「ありがとう」とダウトに返した。


「夕飯を済ませたら各自バラバラに行動しても良いし、組んで行動して頂いても構いません。やり方は任せますので、住人全員を殺したら皆さんでここへ戻って来てもらいます」


 マークが言った後、カレンは告げる。


「パパとママは、あなた達をここで待っています」


 チャリー夫妻に聞きたい事は沢山あるが、各々が何も言えずに黙っていた。


「それでは夕飯に致しましょう」


 マークが笑みを崩さず言った。

 それに従い少年らは立ち上がる。


「エ、エリザは・・どうしましょう?」


 メルキィがそう尋ねると「そこに寝かせといて結構ですよ」と冷淡な声音でカレンは告げた。


「で、でも・・・」


「何ですか?」


 食いぎみに尋ねるカレンの言葉は有無を言わさない迫力だった。

 

「な、なんでも・・ないです」


 メルキィはそう答えるしか無かった。


「行きますよ?」


「はい」

 

 そっとエリザを寝かし、メルキィは立ち上がった。

 袖で涙を拭い、スチルを睨み付けるメルキィ。

 スチルは目線を逸らし歩き出した。


 少年らは大広間を後にする。


 皆がいなくなった後、マークは顔を上げ、スランへ向かって叫んだ。


「ここでおとなしく反省してなさい!!」


 言って、マークも大広間を出た。

 ドアを閉め、鍵を掛けるマーク。

 気絶したエリザと、フェニックスに掴まれた状態のスランだけが大広間にとり残された。


 静かになった大広間にて、宙に浮いたままのスランはエリザに向かって声を掛ける。


「エリザ!エリザー!!」


 だが呼び掛けは届かない。


「くそっ」


 スランは何も出来ない自分が不甲斐なく感じている。

 スランの神獣『ツムギ』は空を飛ぶような真似は出来ないからである。

 今の状況では迂闊に動く事が出来ない。

 フェニックスに触れると熱すぎて火傷を負ってしまう。

 10歳の頃、アルミがふざけてフェニックスに触って右腕に大火傷をした事があった。

 その一件以降、フェニックスにはダウト以外は近付こうとしない。

 ここで暴れてしまうとスランはそのまま地面に落ちる危険性もある。

 

「エリザ、エリザ!」


 再び呼び掛けるも応答はない。


 どうしてダウトはこんな事をしたんだと疑問に思う反面、チユの前で恥ずかしい姿を見られてしまったという事もあり、余計に情けなく感じていた。


「はぁ」


 みっともなく騒ぎ、暴れていた事を思い出し、小さくため息をつくスラン。

 

 一方、フリーライン内の食堂では、お通夜のような静けさの漂った夕食。

 カチャカチャとスープを食べるスプーンの音だけが食堂に響き渡る。

 誰も口を開かない。開けない。


 マークに対してもそうだが、オルガに対しても問い質したい気持ちのアルミ。


「ごちそうさまでした」


 静まり返った食堂で手を合わせマークは告げる。

 

 オルガを除く他の者は食の進みは遅い。

 これから人を殺しに行くのだから・・・


 マークに続いてオルガも食べ終わる。

 いつもの様に食べ終えた食器を片そうと立ち上がると、


「今日は私達が片付けますよ」とカレンが言った。


「ありがとうママ」と小さく呟くオルガ。 

 

「んー、他の方はまだ・・かな?」


 ニコニコと笑いながら、辺りを見渡すマーク。

 遠回しに急かされている様に感じて、食べる速度を上げる小心者のキュラミス。

 それでもこれからの事を考えると、腕が震えて、思うように食べられないでいた。

 そんなキュラミスに、マークはポンと肩を置き小さく呟いた。


「大丈夫、大丈夫!」


 優しく促し、肩を擦るが、それでもキュラミスの不安は拭えずガタガタと震えていた。


「君達は私の誇りだ!!」

 

 声高々にマークは告げる。


「何故ノックヴィルの住人を殺さないといけないか?・・そんな事は今は考えなくて良いのです!!それよりも必ず一人残らず殺して下さい!!」


 支離滅裂な事を表情を変えずに言うマークを不気味に感じる。


 マークの言葉に誰も反応は無い。

 スープを口に運ぶのを躊躇う少年達。

 静けさの中に居心地も悪く時間だけが過ぎていく。

 うつ向き表情が芳しくない少年達。


 しかし、それも束の間___


「早く食えよっ!!」


 眉間にシワを寄せ、急に怒鳴るマーク。

 突飛な怒鳴り声にキュラミスはビクッと身体を震わせ、スプーンが床に落ちてしまった。 


「ごめんなさいごめんなさい!」


 急いでスプーンを拾うキュラミス。

 周りの者達は驚きと戸惑いを隠せないでいる。


「早くっ!!」


 鬼の形相でマークは叫んだ。

 考える間もなく孤児院の子らは急いで食べ出した。


「ごっ、ごちそうさまでした!」


 ザンクが我先にと言った。


「ごちそうさま」


 後に続いて他の者達も言った。

 皆が食べ終わるのを確認すると、小さく頷き笑顔に戻っていたマーク。

 キュラミスの肩を揉みながら微笑みを絶やさずマークは言う。


「皆さん検討を祈ります。帰ってくる条件はノックヴィルの住人を全員殺してからにして下さい」


 簡単に不穏な事を口にするマーク。


「分かった」


 それにオルガが順応する。

 歩き出し食堂を出るオルガ。

 

 パタンと扉を閉める音。

 躊躇なくチャリー夫妻の言うことを遂行しようするオルガ。

 

 他の者は表情を曇らせていた。

 再び静けさが漂う食堂。

 カレンがわざとらしく咳をする。 


 どうしようもなく立ち上がるアルミ。

 不安な表情を隠せないメルキィ。


 「健闘を祈ります」と言って手を振るマーク。


 スチルを先頭に食堂を後にする少年達の表情は硬いままだった。

 食堂に最後に残ったのはダウト。

 マークの側に近寄り尋ねる。


「僕の神獣はスランを拘束しているので降ろしても良いですか?」


 マークは小さく頷く。


「では・・・いってきます」


 歯切れ悪く答えるダウトにマークは小さく手を振って返した。




 



 

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