23
「お前らは不合格って意味だよ」
蔑んだ目をしてマークは答える。
「僕らはどうして不合格・・と、いうか合格とか不合格ってどういう意味なのパパ?」
尋ねるがマークは答えない。
「ママ?」と、隣にいるカレンに視線を向けるが、カレンも答えない。
アルミに感化され、ザンク、メルキィも立ち上がった。
「説明してよパパ!!」
「私達・・何か・・・悪い事したの?」
マークは小さくため息を吐く。
「膨大な時間とお金を掛けて成し遂げたのは五人だけか」
首を傾げる者、澄ました顔でいる者、複雑な表情を浮かべる者、泣き出しそうになる者、そんな少年少女らにマークの言葉は理解出来ない。
「・・・おかね?」
「何・・それ?」
ザンクとメルキィが問う。
「グラスに注がれなかった方々は罰を受けてもらう」
「どうしてですか?」
アルミが尋ねるとマークは面倒くさそうに首に手を置き答えた。
「反省してもらう為です」
「ばば、罰って・・何!?」
キュラミスも立ち上がり尋ねる。
「それはまだお答え出来ません」
カレンが答えた後、呆れ顔でマークが付け加える。
「ママと私の言う事を守れない子はいりません」
キュラミスとメルキィは騒いでいる。
エリザはオロオロと困惑した様子。
冷静に考えていたのはザンク。
「僕が命令に従ってないって・・・パパとママは、どうして分かるの?」
それを聞いてキュラミスも頷く。
「そ、そう!僕達!!命令に従ってるよ!!」
嘘をつくキュラミスを睨み付けるマーク。
その射るような視線に即座に目を背けるキュラミス。
「嘘をついても無駄です。お前達の行動を、我々は全て把握している」
その言葉にダウトとチユ以外の者は驚きを隠せない様子であった。
(全て・・・か)
ダウトは黙って聞いてはいるが、チャリー夫妻に疑いの視線を向けていた。
「どうやって分かるのですか?」とスランが問う。
隣にいるアルミは、質問をするスランを怪訝な表情で見ている。
グラスにワインを注がれていたスラン。
それは、この村の住人を殺しているからではないかと疑っていた。
「特別な方法で分かっているのよ」とカレンが答える。
「特別・・って何なのママ?」
「それは今は・・ー」
「そうですね・・・では、とりあえず皆さん地下室に向かいましょう」
カレンの言葉を遮りマークは言った。
「そうね」と続くカレン。
「使命が達成されたので、あなた達に会って欲しい方がいます」
「地下に、だ、誰か・・・いるの?」とエリザが尋ねるが夫妻は答えてくれない。
カレンはドアを開き、夫妻は出ていく。
二人が出ていき、張り詰めた空気は弛緩した空気へ変わっていく。
オルガ、ダウトの二人は暫くして立ち上がり出ていく。
残った者は話し合う。
「どういう事よ?」
「私は眠っていたから分からないわ」
「パパ達・・・は何か隠している」
「チユは何か知っているのか?」
「分からない」
憶測で話すが分からない事だらけである。
ザンクは当たり前のようにチャリー夫妻に付いていくダウトに無性にイライラしていた。
「とにかく・・向かおうか」
スランが促すと、他の者も立ち上がった。
地下室に続く階段を一人づつ降り、扉の前にて先頭のスランが呟いた。
「・・・パパとママは、この使命の為に僕達を育てたのかな?」
「そうだとしたら私達は・・・ー」
後ろにいたエリザが答えようとしたがアルミがそれを遮った。
「いいから行けよ!」
冷たく言い放つアルミにスランは小さく頷いた。
スランのグラスにワインが注がれた事に不信感を抱くアルミ。
一同が地下室に入ると、そこには普段置かれているトレーニング用具が隅に置かれており、目の前に大きなスクリーンが設置されていた。
天井からぶら下がっているスクリーンを見て、メルキィとエリザがヒソヒソと話す。
「あんなのあったの知ってた?」
「知らないわ、アレ・・・なんなのかしら」
マークは両手を広げ告げる。
「今から君達の両親に合わせてあげます!!」
「ど、どういう事?パパ!?」
キュラミスが問うと、マークは両手を下ろし頷く。
「本当のパパ・・・あなた方のお父さん、お母さんに合わせてあげます!」
そう答えるマークにエリザが質問をする。
「わ、私の両親は・・・戦争で亡くなったと聞いています!」
「いいえ!そうではないのです!」
続くようにカレンが答えた。
少年少女らの両親は、捨て子であると言われたり、戦争で死んでしまったと言われた者もいた。
それをチャリー夫妻の口から告げられていた。
「今まで・・・嘘をついて・・いたのですか?」
「はは、嘘・・・そうですね、優しい嘘。愛ある嘘・・導く為の嘘ですよ」
マークの言葉にエリザの表情が曇る。
フリーラインで育ち、両親の存在を隠され、挙げ句、でっち上げの嘘で今の今まで育てられた事に不信感は募る一方だった。
躊躇なく暴露するマークの声音が不気味に感じるエリザは「そう・・・ですか」と答え俯いた。
メルキィが震えるエリザの手を握った。
エリザは小声で「大丈夫」と呟いた。
マークは黒いリモコンを手に取り、スイッチを押した。
少年らの目の前にある大型のディスプレイが起動する。
ブーンと鳴る機械音に少年らはざわついていた。
暫くすると画面が映し出される。
そこには少年らは知らない大人達が映っていた。
映し出された大人の中心にいる、白髪混じの体格の良い男性が語り出した。
『初めまして、私はスランの父親のスティーブンと申します』
「えっ!?」
唐突な言葉にスランの瞳孔が開く。
(僕の・・・・・お父さん?)
スランの父親は、こちらに向かって笑顔で手を振っている。
「と、父さん・・・ですか?」
スランが尋ねるとスランの父親は頷きながら答えた。
『そうだよ。大きくなったなスラン』
微笑んだ表情にスランの面影がある。
本当にスランの父親なんだと周囲の少年らは思った。
画面に映る大人達は、どこか少年少女らに似た風貌であり、ダウトがそれを指摘した。
「左から二番目の眼鏡を掛けた方は、僕のお父さんですか?」
尋ねられた眼鏡の男はニヤけつつ答える。
『そうだよ。さすが私の息子だ、良く分かったね?』
「・・・はぁ。まぁ、似てます・・からね」と答えるダウト。
どこかたどたどしい会話も無理は無い。
死んだと聞かされていたにも関わらず、姿を現したのだから。
『私の息子であり、我々人類の希望!』
恍惚な表情でダウトの父親は告げる。
「そう・・・なんですか」
温度差を感じるダウトの返事。
『君たちは、この村に・・いや、この星で生きる奴らにとっては使徒と呼ばれる者達なんだよ』
使徒と呼ばれてもピンとこない少年達。
それと同時に画面に映る大人らに違和感を覚える。
チユは自身に似た女性と目が合うと、お互いに無言のまま見つめ合っていた。
「お、お母さん?」とエリザが尋ねる。
『そうよ、綺麗になったわねエリザ』
エリザに似た髪の長い女性が手を振りながら答えた。
全員が全員、自身に面影を重ねる。
画面に映っている大人は、少年らの本当の両親であった。
「私のママ・・・本当のお母・・さん?」
『そうよエリザ、私はあなたの母親のリーサ』
胸に手を置き、答えるリーサの微笑みは、どこかエリザと重なる。
実の両親は亡くなった、行方不明だとチャリー夫妻の口から聞かされていた。
それを今の今まで隠していたチャリー夫妻に、スランは尋ねる。
「どうして今まで黙っていたのですか?」
「それは今からお話しします」と答えたマークだったが、ダウトの父親が否定した。
『その必要は無い』
「どうしてですか!?」
スランは画面に向かって叫んだが、それを無視してスティーブンがチャリー夫妻に語る。
『使命を無事果たしたようだなマーク、カレン?』
「は、はい!村の者達は生きてはいません!」
『神獣の成果は大成功。これからは本格的にやってもらわなければね』
「そう・・ですが、使命を果たせた者は監視カメラで確認したところ、五名程でした」
申し訳なさそうにマークが答えたが、スティーブンは気にしていない様子で告げた。
『最初はそんなもんだよ、これから徐々に慣れていくさ』
そう答えるスティーブンは笑っていた。
その表情にスランは困惑する。
『君達、チャリー夫妻にはお世話になったね?』
スティーブンは微笑みながら尋ねるが誰も口を開かない。
少しの間を置いてキュラミスが答えた。
「う、うん。僕達はパパとマ・・・ー」
『ではチャリー夫妻を殺して下さい』
遮り、ダウトの父親が告げた。
「は?」
マークとカレンはお互いの顔を見合せる。
「どど、どうして!どうして我々が!?」
「そうです!私達は任務に忠実に従ってきました!!」
『あなた方の役目が終わりだからです』
そう答えたのはメルキィの母親であった。
「はっ、話しが違うじゃないですか!?こんな、こんな娯楽も無い星で私達は一生懸命耐えて、こいつら・・・子供達に尽くしてきました!」
『あなた方は知りすぎたのです』と答えるメルキィの母親。
「私達を騙したのですか?」
カレンの問いにアルミ、スチルの父親が答える。
『そうだね、そうなるね』
悪びれた様子もなく口にした言葉に、チャリー夫妻の顔がみるみる青ざめる。
『さぁ、村の住人を皆殺しにしたあなた方なら簡単なはずです。命令です、チャリー夫妻を殺しなさい』
「ふ、ふざけんじゃないわよ!冗談でも言っていい冗談と・・ー」
『冗談な訳無いでしょ』と呆れ顔でダウトの父親が答える。
チャリー夫妻は少年らに視線を向ける。
困惑した表情の、キュラミス、メルキィ、エリザ。
「そ、そんな事・・・しないよな?」
マークはディスプレイを切る為、リモコンをオフにしようとした。
電源を切り、それから少年達を言いくるめようと考えた。
『早くしなさ・・・ー』
プツリと画面が切れた。
暗くしていた部屋は真っ暗になる。
「しょ、食堂に戻って・・・お祝いしましょう。話しは、その、それからです!」
言葉を選ぶカレンはぎこちない。
「で、では食堂に!」と、便乗してマークが答えるが、誰も答えない。
暗い部屋に少年らの表情が見えない為、恐怖を感じるチャリー夫妻。
「行きますよ」
逃げるように地下室を出ようと早足になる二人。
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