22

 扉を開けると、そこにはチユとダウトとエリザの三人が散り散りに座っていた。

 円形状のテーブルの上には、人数分の空のグラスが逆さまに置かれているだけであった。


(パパがいない?)


 ザンクは周辺を確認し、ダウトの隣に座った。

 

「エリザ!!」


 暗い表情をしていたメルキィだが、エリザがいた事で緩んだ表情になった。


「メル!無事だったのね?」


 メルキィの事を普段からメルと呼ぶエリザが立ち上がった。


「私は大丈夫!それより・・エリザは平気なの?」


 メルキィは駆け寄り、二人は互いに手を握る。

 その様子を薄目で見るチユ。


 メルキィはエリザの隣に座った。

 それからメルキィは小声で、これまでの経緯を話し始めた。


「あそこに座ろうか」と、キュラミスの肩をポンポンと叩きアルミが指差す。


「う、うん」


 二人は着席する。

 エリザとメルキィがひそひそと話しているだけで、他の者は口を開かない。

 それから暫くして扉が開く。


 スチルが戻ってきた。

 辺りを見渡し、チユの両隣が空いていたので、そこへ着席する。

 メルキィが一瞬盗み見る。

 それも直ぐに逸らすとまたエリザと話しを続ける。

 スチルの不意討ちにより、気絶させられてしまったエリザだったが、メルキィはその事をエリザには言わなかった。



 ダウトは目を瞑り正面を向いている。

 落ち着いた様子に沸々と苛立ちが募るザンク。


(なんで何も言わないんだよ)


 普段から良く話す仲ゆえ余計にイライラする。


 エリザ、メルキィの会話も止み、誰も口を開こうとはしない。

 お通夜のように静まった食堂。


 それから程なくしてスランが戻ってきた。

 バタンと勢いよく開けたドアに一同から視線を浴びる。


「ス、スラン!」


「大丈夫だったか?」


 ザンクとエリザが同時に声を掛けた。


 小さく頷いて、周囲を見渡し、ダウトの方へ早足で向かうスランだったが、


「スラン!!」


 アルミが叫んで手招きをした。


「待ってくー・・・」


「いいから!!こっち来いよ!」


 遮り、アルミは告げる。

 その表情を見てスランは小さく呟く。


「わ、分かった」


 アルミの隣に座るスラン。

 座って直ぐにチユに視線を向ける。

 悲しげな顔をしているチユと目が合う。

 

 チユが住人を殺害している現場を見ているスランは、どういう態度を取れば良いのかが分からないでいた。


 お互いが不安気な表情のまま、チユは下を向くのであった。


「どこにいたんだ?」とスランに小声で話し掛けるアルミ。


「えっ?あぁ・・中央区辺りにいたよ。アルミは?」


「僕は、いや・・僕らはキュラミスとメルキィの三人で行動していた」


「そっか」


 スランがそう答えるとアルミは言葉に詰まった。

 この三時間の間に、スランは住人を殺したのか、その有無次第ではスランに対しても疑心暗鬼になる。


(スランが・・・そんな事するはずない)


 心ではそう思っていても、スラン自身から直接返事を聞いていない為、不安になるアルミ。


 言葉を選ぶが口に出すのが難しい。

 スランはうつ向いたままのチユの方へ、再び視線を向けていた。


 結局アルミは何も言えず、暫くの沈黙となった。

 各自抱いている感情にピリピリとした嫌な空間。


 そんな空気の中、ゆっくりとドアが開く。


 オルガとチャリー夫妻の三人が一緒に入ってきた。

 マークはワインのような瓶のボトルを手に持っていた。


 フリーラインで住んでいる全員が集まった。


 全身血まみれ状態にあるオルガは、無言でチユの隣に座る。

 それを見てピクリと片眉が上がるスラン。


「お疲れ様でした」とカレンが告げる。


「本来なら皆さんお疲れ様と言いたいところですが、そういう訳にも行かないのでね」


 神妙な面持ちでマークは言った。


「目の前にある逆さまのグラスを戻しなさい」


 カレンが言った言葉に少年らはグラスに目を向ける。 

 逆さに置かれたグラス。

 

 オルガとダウトだけが従う。

 他の者は躊躇していたが、


「早くっ!!」


 突然叫ぶマーク。

 普段温厚なマークゆえ、驚いてしまうキュラミス。


 少年らがグラスをひっくり返すと、マークは手に持っていたボトルを一番近くにいるスチルに注ぎだした。


 真っ赤なワインであった。


 注ぎ終えると隣にいるチユに注ぐ。


 無言でニコニコと笑いながら注ぐ様が不気味に感じる者もいた。

 チユのグラスに注ぎ終えると、その隣にいるオルガ、ダウトへ注いでいく。


 それからコツコツと歩き、ザンク、メルキィ、エリザ、キュラミス、アルミを飛ばしてスランのグラスにワインを注ぐマーク。


 スランのワインを注ぎ終えると、またドアの前まで戻るマーク。


 手をパンパンと叩き告げる。


「飲み物を注がれた方々は合格です!」


 困惑する者、理解した上で表情が曇る者も入れば、ほくそ笑む者もいた。


「ど、どういう意味ですか?分かるように説明して下さい」


 アルミが立ち上がり質問をする。

 小さくため息を吐いてマークは答えた。

 

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