21

 ノックヴィル襲撃からおよそ三時間ーー




『皆さんお疲れ様です、戻ってきて下さい』


 マークの声がノックヴィル全体に響いた。

 散り散りにいる孤児院の子らは、驚いた様子である。


『繰り返します。お家に戻ってきて下さい』


 周辺は焼け野はらと化している。

 

「パパの声だよね?」


 キュラミスが、一緒に行動を共にしている二人に言った。


「そんなの分かっているわよ!」とメルキィが返す。


 結局、最後まで何もする事が出来なかった三人。


「どうしてパパの声が聞こえるの?」


「私にそんなの分かる訳ないじゃない!!」


 キュラミスに向かって叫ぶメルキィ。


「パパの神獣かもな」


 アルミがそう返すと、メルキィはハッとした表情を浮かべ返した。


「パパの神獣!?アルミ、見たことあるの?」


「いや・・無いけど」


「なによそれ!」


 アルミは立ち上がり答える。


「とりあえず帰ろう」


「もう・・終わったの・・・かな?」


 キュラミスが不安気に尋ねると「かもな」と返すアルミ。


 終了を告げられ、複雑な表情になる三人。

 ノックヴィルの住人を全員殺したのか、仮にそうだとして、マークがどうしてそれを把握出来ているのか、そんな思考を巡らせながら帰宅する。


 三人がフリーラインへ帰る道中、ザンクに遭遇する。


「お、お前ら!一緒にいたのかよ?」


「ザンク!無事だったのね!」


 メルキィが駆け寄る。


 三人で行動を一緒にしていたのが羨ましく思うザンク。


「なんだよ、俺も誘ってくれよな?」


「悪い、声、掛けそこねてな」


 アルミが申し訳なさそうな表情で答えた。


 四人で帰宅する。

 道中、至る所に住人の死体がある。


「この人・・僕達に優しかったよな」


 ザンクが足を止め、遺体となった住人を見て言った。


 四人の表情は暗い。


 暫くの沈黙の後、「帰ろう」と呟くアルミ。


 それから無言でフリーラインへ向かう。

 小粒の雨により、地面はぬかるんでいた。


 アルミ、キュラミス、メルキィの三人はザンクのこれまでの動向が気になっていた。

 村の住人を何人殺したのか、他の仲間にあったのか、そんな事を考えていた。


 同様にその疑問はザンクにもあった。


 無言のまま、どんよりとした空気に居たたまれなくなったザンクが、痺れを切らして言った。

 

「俺・・・・・俺は!!・・誰も殺してないからな?」


 そう投げ掛ける声音は悲しげであった。


「ぼぼ、ぼ、僕達も一緒だよっ!!」


 キュラミスが答えると、ザンクは優しげな表情で頷いて呟いた。


「良かった」


 四人は少しだけ笑みを浮かべていた。


 フリーラインの入り口の前でカレンが立っていた。

 出迎えであろうか、微笑みながら言った。


「食堂にパパがいるから行って下さい」


「ママ」


「入りなさい」


「ママ・・私達・・ー」


 遮り、カレンは四人を見て小さくため息を吐いた。


「あなた達は失敗作ね・・」


 その言葉にメルキィは泣きそうな表情になる。

 

「どういう意味ですか?」とアルミは尋ねる。


(僕達がパパとママの命令に従えなかったから?・・もしそうだとしても僕らの動向を知ってる訳ないし、それにザンクとは別行動だったし・・・)


「話しはパパから聞いて」


 メルキィはカレンの両手を握る。


「ママ・・私達、怒られるの?」


「ママ!」


 キュラミスもカレンに向かって駆け寄る。


「離しなさい」とカレンは呟き、手を払いのけた。

 その行動が信じられなくてショックを受けるメルキィ。

 キュラミスは近づくのを止めて、その場で立ち尽くす。

 息を呑むザンクとアルミ。

 

「マ、ママ?」


 カレンは不敵に笑って言った。


「お家に入りなさい」


 口調は穏やかであった。


「はい」とザンクが返事をし、四人は入っていく。


 玄関の床下に血塗られた足跡があった。

 既に帰ってきている者もいる。


 オルガとダウトのどちらかだろうとザンクは思った。

 村に向かってから10分も経たずに、ダウトの神獣フェニックスが空から火球を落としているのを目撃していた。

 躊躇なく使命に従うダウトに疑問を抱くザンク。


 入り口のドアを開け、入る直前にザンクは小さく呟いた。


「ダウトは信用はするな」


 その言葉に三人は理解する。

 概ね、四人が共通で感じていたダウトへの不信感。

 食堂に向かう足取りは重い。


 カレンは付いてこない。

 まだ戻ってきていない者を待っている。


 食堂の前まで四人はやってくると、緊張した様子で扉を開けたザンク。


 

 



 



 



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る