20

「・・・・オルガ」


 冷淡な声音のチユに対し、オルガは近付いてきた。


「お前、何人殺した?」


 オルガはスチル同様に、同じ質問をチユにも聞いたのには安直な理由からである。

 一番自分が多くの住人を殺すことであった。

 勝手に競争意識を燃やすオルガだった。


 チユは「覚えてない」と嘘を付いた。


 これまで殺した住人の数を覚えていたチユだが、オルガには言いたくなかった為、咄嗟に嘘をついた。


「ははっ、数えきれない位殺ったのか?」


「そうじゃない」


「まぁ、どっちでもいいか」とオルガは答え、地面に横たわるハザトの遺体を見た。


 腰を落とし、ハザトの髪を掴み、持ち上げた。


「あぁ・・このおっさんか」


 呟くオルガにチユは何も答えない。


「えらそうにふんぞり返って気にくわなかったなぁ。こいつは俺が殺したかったぜ」


「誰が相手でも関係ないよ」


 そう答えたチユにオルガは笑って返す。


「まぁ、そうだな!お前が殺したのか?」


 暫くの沈黙後、小さく頷くチユ。

 オルガはハザトの顔面に唾を吐き、手を離した。


 それからパンパンと手を払い、チユに告げる。


「一緒に組まないか?」


「嫌だ」と即答するチユ。


 オルガは苦笑で返す。


「なんでだ?俺と組んだ方が効率良く殺れるだろ?」


「あなたが嫌いだから」


 渇いた笑いでオルガは言った。


「ははっ・・言うねぇ、まぁいいや」


 オルガはそれから歩き出した。


 姿が見えなくなるまで確認してチユも歩き出す。

 オルガとは反対方向へ。


 その様子を上空にて、スチルの神獣モースが、一部始終を見ていた。

 スチルが頭で意識をすれば、視界だけではなく、会話の内容まで知る事が出来る。


 チユがいた場所から500メートルほど離れた場所にスチルはいた。

 オルガの動向を追跡していたスチルは、たまたまチユとオルガのやり取りを見たのだった。


(あいつがあんな顔するなんてな)


 チユを誘うことにも驚いたが、それ以前に上機嫌なオルガの表情の方がスチルには違和感だった。


 パン屋のカルメン夫妻の件で、オルガに言われた言葉が引っ掛かるスチルは、ただ目的もなくオルガの動向を見ていた。

 

「あいつは異常だ」と独り言を呟くスチル。


 オルガは、スチルと別れた後から、これまで9人の住人を殺していた。


 楽しんで実行しているさまに、嫌悪感は肥大化していた。


 オルガ、チユのやり取りの中でチユが言っていた言葉が頭に浮かぶ。

 

 誰が相手でも関係ないー・・・・・


 スチルにはその言葉は耳が痛かった。

 何故自分はカルメンを助けようとしたのか、あの場でオルガを撒いたところで、その後どうすれば良いのかも浮かんでいない。

 

 感情的過ぎるとオルガに言われ、それが図星と理解した上でスチルの心情は揺らいでいる。


(パパとママの言うことは絶対・・・)


 胸に手を置くスチル。

 心臓の鼓動が早い。

 グリム、カルメンの笑った顔が頭に浮かぶ。


「くそっ」


 心が痛いといった感情は、スチルにとって生まれて初めての事だった。


(なんだよこれ)


 どうして胸が苦しいのか理解出来ないスチル。

 

「・・もういい」


 呟き、モースを消した。

 自身の神獣は、思考するだけで瞬時に消える。

 逆に、口に出さずとも思考するだけで瞬時に現れる事も可能である。


 スチルはその場でうずくまった。

 感情がグチャグチャになり、どうすれば良いのか分からず動けなくなった。


 そのままスチルは事が終わるまで、使命を放棄するのであった。


 交錯する様々な感情。


 率先してノックヴィルの住人を殺害する者、それを阻止しようとした者、恐怖で身動きがとれなくなる者、様々な思惑が飛ぶ中で時間は過ぎていく。

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