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 それから暫くの沈黙。


「どうして・・・・だよ?」


 弱々しく尋ねるスラン。

 それに対してチユは何も答えない。

 道端に転がる石ころをジッと見つめていた。


「人を殺める事に・・何の抵抗も無いのかチユは?」


「・・そんな訳ないよ」


「だっ、だったら!!お願いだから、た、頼むから・・本当に止めてくれ!」


 チユはゆっくりとスランの前へ歩み寄る。

 赤ん坊を抱きかかえたスランの前へ両手を広げる。

 もう一度、赤ん坊に触れたいのだろうとスランは思い、チユに預ける。


 頬っぺたをツンツンと押すチユ。

 その表情は穏やかであったが直ぐに悲しげな表情になるチユ。

 顔を上げ、儚げな表情でスランを見るチユ。


 それを苦笑いで見守るスランであったが「ごめんなさい」と消え入りそうな声で呟くチユ。


「お、おいっ!!」


 チユの神獣マゴノテが瞬間的に現れ、赤ん坊を刺したのだった。


 赤ん坊は即死だった。

 あまりにも突発的な出来事に反応が出来なかったスラン。

 チユは両手を離した。

 地面に落ちる赤ん坊。

 まるで人形でも扱うようなチユの行動。


(なんで?こんなの・・・あのチユがするハズ無いだろ)


 狼狽えるスランに一言、「使命・・・だから」と嘯くチユ。


 何も答えられないスラン。

 ショックを隠せないスランの表情を見て、直ぐに目を逸らすと、チユはそのまま黙って走っていった。


 追いかけようともしないスラン。

 どんなに力説しても、チユの耳には届かない。

 死んでしまった赤ん坊に目を向けるスラン。


「ごめん・・ごめん」


 両膝を地面について赤ん坊を抱き上げる。


「ごめん・・なさい」


 当然返答は無い。


 どうしたら良いのか分からない。


「ごめん・・・・・ごめんよ」


 自分が無力だと嘆くスランは何度も何度も、謝っていた。



 一方でスランが探していたダウトは、村の入り口付近でいた。

 神獣から逃げ惑う住人を柵で覆われた入り口から襲っていた。


「残酷だ」と呟き、人々を次々に焼死に追いやる。

 

「き、君も早く逃げなさい!」


 壮年の男性がダウトに声を掛ける。

 妙に落ち着いているダウトを急かす。


「施設の子だね?・・こっちから森を抜けると海の方に行けるよ!だから早くっ!」


 手を大きく振り誘導する男性にダウトは小さく頭を下げる。


「大丈夫です」


「だ、大丈夫なもんか!!大きな化け物が村を襲ってるんだよ!?」


「そうですか」とダウトは告げるとフェニックスが背後から姿を現した。


「う、後ろっ!!」


 ダウトに向かって指を差す男性。


 フェニックスは男性に向かって飛んでいく。

 腰を抜かした男性は尻もちをついた。


「く、く、来るなー!!」


 上空に向かうや否や、急降下で男性に衝突するフェニックス。

 瞬間、男性は燃え上がる。


「あああああーっ」


 声にならない悲鳴を上げる男性。

 ゴロゴロと転げ回る男性だったが、数分後息絶えた。

 それを確認してダウトはフェニックスを消した。

 自在に神獣を扱える孤児院の子らは、思うがままに出したり消したりと出来る。


 その光景を草むらから覗いている者がいた。

 動揺を隠せず、小枝を踏んだ音でダウトは気付く。


「誰かいるのかい?」


 応答は無い。

 

「フェニックス」


 またしても神獣を召喚するダウト。

 その様子に堪らず姿を見せたのはノックヴィルの住人の少女であった。


 少女の名はプリシラ。

 ダウト達、孤児院の者より二つ下の16歳の少女。


「あ、あなたが・・やってる・・・の?」


「やぁ、プリシラ」


 ダウトは僅かに微笑んだ。


「その大きな鳥は・・ダウトの・・・その、ペットなの?」


 探り探り尋ねるプリシラ。


「ははっ、面白いこと言うねプリシラ!」


 こんな状況下で笑っているダウトが不気味に感じるプリシラ。

 一部始終とまではいかないが、ダウトがフェニックスを操っているのも目撃していた。

 逃げないといけないのだと頭では理解しているが、プリシラの頭は混乱していた。


「どうして・・・・・こんな・・するの?」


 掠れる声。


「えっ?」

 

 耳を手に、聞き取れないダウトがゆっくりとプリシラに近づく。


「い、嫌っ!?来ないでっ!!」


 咄嗟に後退するプリシラ。


「何故だい?僕だよプリシラ?」


 笑顔で手を広げるダウト。


「近づかないでっ!!」


 叫ぶプリシラだが、ダウトは変わらず近づいてくる。


 落ちている小石を拾い、投げるポーズを取るプリシラ。


「そそ、それ以上来たら・・投げるからっ!!」


「構わないよ」と答えるダウト。

 プリシラはダウトに小石を投げた。

 それがダウトの額に命中した。

 

「コントロール良いねプリシラ」


 それでも変わらず笑っているダウト。


「つ、次は・・もっと大きいの投げるからっ!!」


「そうかい」


 ダウトは歩みを止めない。

 キョロキョロと周りを見渡すプリシラだったが、辺りに大きな石は落ちてはいなかった。


 ガサリと草むらをかきわけ、ダウトはプリシラの前まで来た。


「来ないで!」


 小さく笑ってダウトは答えた。


「もう来てしまったよ?」


「あっち行って!・・あっ、あっち行けっ!!」


 首を左右にコキコキと鳴らし、ダウトは言った。


「あのカプセルの中じゃ首や腰が痛くてたまらないよ」


「カプセル?」


「君には分からないよね?」


 にこりと微笑むダウト。


「お、お、お願い・・・だから・・助けて?」


 震えるプリシラにダウトは小さくため息を吐いて答えた。


「ごめんだけど・・それは無理だ」


 そう告げられプリシラは走ろうとしたが、ダウトに腕を掴まれてしまう。






 











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