10

 愕然と項垂れているスランを横にチユは言った。


「これからどうするの?」


 疑問を投げかけるチユに、スランは立ち上がり答えた。


「レオンが・・・死んだんだぞ?」


「うん」と小さく頷き答えるチユ。


「なんとも思わないのか!?」


「それが使命だから・・・」


 そう答えるチユに苦笑混じりにスランは言った。


「使命ってなんだよ!?」


「わかんない・・よ」


「分からんからって人を殺して良いのか!?」


「私は殺してない!」


「レオンはそうかもだけど・・他の人を殺してるだろが!!」


 声を荒げるスランに泣きそうな顔でチユは言った。


「なんで怒るの?」


 震えるその声にスランはもどかしい気持ちでいっぱいになる。

 責めるように言ってしまった事もあるが、それでもチユがこの村の住人を殺しているのは事実な訳で、どうすれば良いのか分からないでいた。

 

(他の皆は・・どう考えてるんだ?)


 複雑な心境の中、ダウトの事が気になるスラン。

 ダウトがこんな理不尽に人を殺すような真似をするとは思えないスラン。


「怒って・・・ないよ」

 

 呟いたその声にチユは黙った。

 スランは再びチユの手を握り歩き出した。

 レオンの近くには焼け焦げた焼死体が二人。

 おそらくレオンの両親だろうと思うスラン。


 レオンの両親も優しかった。

 父親には色々な遊びを教えてもらい、母親からは普段は食べる事が出来ないお菓子をくれたりした。

 それを思い出すだけで泣きそうになるスラン。

 スランだけではなく、ダウトやアルミもレオン一家とは仲が良かった。

 それだけに、こんな事をしてしまったダウトの思考が分からないスラン。

 焼死体はダウトの神獣フェニックスによるものだと考えている。


(会って・・・止めないと)


 走り出すスランと手を引かれるチユ。

 ノックヴィルの町中を走り回り、ダウトを捜索する。

 スチルの神獣モースの目を避けるようにコソコソと死角から動くスラン。


「ば、化け物が出たぞ!?」


 ノックヴィルの住人の男がスランに向かって叫んだ。

 壮年の男は、息を切らし汗だくであった。


「は、はい」


 どう返したら良いのか返答に困るスラン。

 その化け物を孤児院の仲間達が動かしている。

 それを告げる事は出来ない。

 謝罪をするのも違う。

 もどかしい気持ちになるスラン。


「君達も・・早く逃げるんだよ?」


 住人のおじさんはそう言うと走って森の方へと向かった。


「化け物・・・か」


 呟くスランの声音は弱々しい。


「行かないの?」


 チユが首を傾げる。


「行こう!」


 チユの手を強く握り、再び走り出したが少し走ったところでチユが立ち止まった。


 俯くその表情が見えない。


「どうした?」と尋ねるスランだが、答えないチユ。


 呆然と立ち尽くす二人。


 周りの喧騒は、より一層激しくなっていた。


「チ、チユ?」


「やっぱり・・・駄目だよ」


「駄目って何が!?」


 チユは手を振りほどいた。


「てか、急がないと・・ここは危ないよ!」


 そう答えるスランに儚げに笑って答えるチユ。


「私達は大丈夫だよ」


「でも、その・・巻き添えになるかも知れないし!と、とにかく、まずはダウトから探そう!・・・な?」



 説得するスランを横にチユは儚く笑ってみせた。

 その表情に暗い顔をするスラン。

 


 


 

 



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