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 スランの神獣【ツムギ】は、四足歩行の馬の神獣である。

 全身は白く輝き、澄んだ眼は青い神獣。

 ペガサスを彷彿とさせるも、角や羽は生えていない。

 ツムギの身体能力は太い両脚による速さにある。

 スラン以外がツムギに騎乗しようとすると、暴れて落馬してしまう。

 過去にアルミ、ザンクの二人は乗馬しようとして振り落とされた事があった。

 スランの意思とは関係無く、スラン以外が乗る事をツムギは拒み暴れてしまうと言ってはいるが、それはスランの嘘であった。

 神獣に意思など存在しない。

 チユと一緒にツムギに乗りたかったスランは14歳の頃、チユを乗馬に誘うも断られてしまう。


 その時にツムギの真っ直ぐに見つめる目が怖いとチユに言われた。

 それ以来、極力ツムギを呼び出す事をしなくなったスラン。


「止めろスラン!」と呟くダウト。


 冷静なダウトとは真逆にポロポロと大粒の涙を溢すスラン。

 ダウトの方に視線を向けるスラン。

 後ろで見ていたエリザも泣き出した。

 その隣で、アルミは悲しい表情になった。


(やっぱり・・・スランはスランだ)


 スランと仲が良かったアルミは、感情的になっているスランの様子に悲しいながらも安堵していた。


「れ、冷静に話し合おう、な?・・スラン?」


 ダウトさえ言いくるめてしまえば何とかなると考えていただけに、マークは焦って後退する。


「僕は、僕はやりたくも無かったのに、村の人を殺したっ!」


 スランの告白に一部の者達がざわつく。


「う、嘘・・」


 掠れた声でエリザは呟く。


「オルガ!!」と叫ぶスラン。


 突然名前を呼ばれ、首を傾げるオルガ。


「あぁ!?」


 威嚇するような視線をスランに向ける。


「お前が!お前が殺した人の中に、まだ生きている人がいた!」


 小さく舌打ちをしてオルガは立ち上がった。


「だから?・・俺が、この中で一番殺してんだろ?なぁパパさんママさんよぉ!?」


 凄みつつチャリー夫妻に問いかけるオルガ。

 咄嗟にチャリー夫妻はうつ向いた。


「その人は・・・瀕死だった」


 スランはチユと別れた後、絶望の中、それでも皆を止めようと走り回っていた。

 その時のスランは、ダウトを捜し、説得しようと考えていた。

 闇雲に捜索するも、ダウトは見つからなかったが、道中に腹部に大きな穴が空いた女性を見つけた。

 女性は倒れており、腹部から内臓が飛び出ていた。

 それを見てスランは苦渋に満ちた表情になった。


(この人は・・・もう助からない)


 それは誰がみても一目瞭然であった。

 ノックヴィルの住人で名前はシホン27歳。

 男性陣は、あまり関わりが無かったが、エリザとメルキィの二人は、本当のお姉さんのように慕っていた。


「ひっ、ひっ、ひぃ」


 消え入りそうな声で呼吸をするシホン。

 ガクガクと小刻みに震えていた。


 スランが近付くと、シホンは持てる力の全てを使って顔を上げる。

 それから一呼吸置いて言った。


「おね・・・がい、はぁはぁ・・・・ころ・・じて」


 スランは混乱した。

 

(僕が・・・・・殺す?)


 精一杯の力を振り絞りシホンは続ける。


「は、早ぐっ!・・じにたい」


 掠れた声で、ハッキリと聞こえた「死にたい」と言う願い。


 スランが悩んでいる間にも、シホンは苦しんでいる。

 その事が余計にスランの思考を鈍らせる。


(この人・・・あまり喋った事無いけど、大人しくて優しい人だったな)


 混乱するスラン。


(あまり笑う人じゃ無かったけど、笑ったら綺麗な人だった気がする)


 訴えかけるような眼光でスランを見つめるシホン。


(そういえば、昔、クッキー焼いてくれて貰った事がある)


 シホンの口からは血が出ていた。 


(あれ・・・いつ頃だったっけ・・・10歳?いや、12歳位だったかな)


 呆然としているスランにシホンは呟いた。


「じ、じに・・たいの」


 もがき苦しんでいるシホンの視線がスランに追い打ちをかけた。


(僕が・・・殺す)


 スランの呼吸も早くなる。


(誰も・・・死んで欲しくない・・のに)


「あぐっ、ぐぅ」


 嘔吐する大量の血。


(こうしてる間も、この人は痛くて辛い思いをしている)


 ピクピクと痙攣しているシホンを見て、小さく息を吐いた。


 スランの全身からは、スーっと血の気が引いていた。

 覚悟を決め、スランは呟いた。


「ツムギ」


 神獣ツムギは前脚を高く上げ、そのままシホンの顔面にのし掛かった。


 シホンは即死だった。

 腹部に空いた大きな穴の様子からして、オルガが殺ったと核心するスランだった。


 シホンを殺めてしまった事を語り、スランは覇気無く告げた。


「僕は・・誰も殺したくなかった」


 そう言って涙を拭うスランに、オルガは挑発的に告げる。


「それが、あれだろ?使命ってやつ。し、め、い!!分かってんだろ!?」


 オルガの挑発にスチルが答えた。


「お前はただ、楽しんでるだけだろ」


 オルガは後ろにいたスチルに対し、首を回し睨み付ける。


「だったら何だ?あぁ?悪いのかよ!?」


 否定しないオルガに、エリザとメルキィは立ち上がり離れる。

 その様子を見てチユも同じく離れた。


「幼稚なんだよ」と呟くスチルにオルガはカチンときて立ち上がる。


「るせぇ!!お前らがな・・・ー」


「黙れ!!」


 遮り、ダウトが叫んだ。




 


 

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