13

 フリーラインの南側にはアルミとキュラミスとメルキィの三人がいた。

 固まって行動しているが、それぞれの表情は重い。

 水源である井戸の前で固唾を飲んで座っていた。


「僕達・・これからどうすれば良いんだろう?」


 キュラミスが重い空気の中、口を開いた。


「パパやママの言う通りにしないと駄目だろ」


 アルミが答えた。


「で、出来っこないよ!?」


「ちょっと大声出さないでよ!気付かれるでしょ?」


 メルキィがキュラミスを睨み付ける。

 気を失っているエリザの事が気になり、イライラした様子のメルキィ。


「ごご・・ごめんよ」


「気付かれるって・・誰にだよ?」


 アルミが尋ね、メルキィは唇を尖らせ答えた。


「オ、オルガとか・・その・・スチルに・・」


「あぁー、そっか」


 ゴニョゴニョと歯切れの悪いメルキィだが、それも無理はない。

 アルミとスチルの双子は幼い頃から仲が悪い。

 それはチャリー夫妻のみならず、孤児院の子らは皆が知っている程に、犬猿の仲である。

 申し訳なさげな様子のメルキィに対し、空気を読み、気にしてないよう振る舞うアルミ。


「それにしても・・・酷いね?」


 見渡す限り、遺体が散乱している。

 見知った顔もいるノックヴィルの住人の死体。


「誰がやったんだろ?」


 覇気なく尋ねるキュラミス。

 

「知らないわよ!!・・・どうせ、多分オルガでしょ!」


 メルキィがそう答えてから暫くの沈黙。



 キュルルルーとお腹が鳴る音。


「お腹空いたなぁ~」


 キュラミスがお腹を擦りながら言った。


「さっき食べたばかりでしょ!?」


「だってスープだけじゃお腹が満たされないよぉ」


 普段はパンを最低でも3個は食べるキュラミスだが、あの状況ではそんな余裕をかませる訳も無く、食を抑えていた。

 

「こんな意味分かんない状況で・・・アンタにはホント呆れるわ」


 やれやれといった表情のメルキィ。


「ご、ごめんよ」


「べ、別に謝らなくていいわよ!!」


 しょぼんとした様子で謝罪するキュラミスに苛立つメルキィ。


「ごめん」


「謝らないでっ!!」


「う、うん、分かった!!・・ごご、ごめん」


「はぁ!?」


 キュラミスは直ぐに謝る癖がある。

 無難に衝突を防ぐ為に覚えた処世術。

 長い間、一緒に暮らしているメルキィ達からしたら、それが口癖になっている事は分かっていた。


 その為、余計に腹がたつメルキィ。

 

 もじもじとビクついているキュラミスに苛立ってくるメルキィ。


 三人がいる周辺で大きな爆発音が鳴った。


「きゃっ」


「うわぁー」

 

 身を屈めるメルキィと、あわあわと挙動不審な様子でテンパっているキュラミス。


「静かに!」


 小声でアルミが告げる。

 身を寄せ合い、三人は瓦礫の中に隠れて様子を窺った。


「ちょっと!近いっ!!」


「だ、だって」


「お前ら静かにしろ?」


 呆れた様子で注意するアルミ。

 アルミ自身も、どうすれば良いのか分からないでいた。

 これ以上の被害を出さない為にオルガ達を止めたい気持ちもあるが、立ち向かえる勇気も無い。

 なおかつ、チャリー夫妻の命令に叛く事にもなる。

 食堂から出た時、不安気な表情をしたキュラミスとメルキィを見てアルミから声を掛けた。

 それから三人で行動を共にしている訳だが、特に何かを起こす事もなく隠れてやり過ごしていた。

 様子を見て答えを模索しようとするが、その間に殺されてしまうノックヴィルの住人の事を思うと焦りが生じる。


 周囲の熱気に、キュラミスの額から汗がポタポタと落ちていた。

 

「もっと離れなさいよ!」


 苛立ちを隠す様子もなく、両手でキュラミスを押しながらメルキィは言った。


「や、止めてよぉ~」


「暑苦しいのよ!!」


「ごご、ごめんよぉ」


 精神的に錯乱状態にある二人。

 二人の小競り合いに悲しい顔をしてアルミは告げる。


「二人共、少し落ち着けよ!」


「ご、ごめんアルミ!!」


 キュラミスが謝る一方、メルキィはムスっとした顔をするだけだった。


「迂闊に動かない方が良い・・とにかく今は黙って待ってみよう」


「待ってどうするのよ?」


 メルキィの問いに答えを出せないアルミは下を向いて小さく呟いた。


「分からない」


 それから暫くの沈黙の後、ポツポツと雨が降ってきた。

 沈んだ表情の三人に追い打ちを掛けるような雨。

 

「・・・移動するぞ?」


 アルミがそう言うと二人は黙って頷いた。

 


 

 


 

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る