矛盾の先にある安寧
双葉 琥珀
第1章 終わりの始まり
1
過疎化の進む小さな村『ノックヴィル』
人口わずか150人程の田舎町。
緑豊かなその村の端には不自然なほど大きな孤児院がある。
孤児院の名は『フリーライン』
孤児院に棲んでいるのは、壮年の夫婦2人と幼い子供が10人だけである。
創設した者の名はチャリー・マーク(45)と、その妻のカレン(44)だ。
孤児院内には戦争で両親を亡くした子供や捨て子が住んでいる。
ノックヴィルにやって来た当初は、おどおどとしていた子供達だったが次第に打ち解けていき、今では元気いっぱいに笑顔を振りまく生活を送れていた。
それも一重に、孤児院を建てたチャリー夫妻の子供を愛するがゆえ。
チャリー夫妻はパパ、ママと呼ばれ子供らから信頼されている。
子供達には共通点が1つあった。
年齢が10人共9歳だった。
誕生日、性別は違えど、全員が同い年であった。
施設に来て程なくして、子供達にはパートナーが出来た。
思考を巡らせれば、どこからともなく現れる得たいの知れない生物。
マークはそれを【
神獣は子供達に与えられた守り神だとチャリー夫妻の妻であるカレンは言った。
マークから人前には絶対に出さないようにと言われ、子供達と夫妻だけの秘密とされている。
コンコンとフリーラインのドアを叩き、
「おはようございます~」と大きな声で挨拶をするのは、ノックヴィルでパン屋を営んでいるカルメンおばさん。
パン屋とはいえ、パンを金銭で売買する習慣はノックヴィルにはない。
住人同士は助け合い、村で出来た農作物と交換したりといったやり取りがされている。
「おはよう!!」
ドアを開け、元気な挨拶をしたのは孤児院の子供のアルミ。
「元気だね、アルミ」
言われて嬉しそうに頷くアルミ。
「いつも本当にすまないねぇ」
アルミの後ろから声を掛けたのはチャリー夫妻の旦那のマーク。
面長で所々に白髪の交じった眼鏡を掛けた壮年の男性。
「いいのいいの、子供達の笑顔が見たいだけなんだから」
「本当に感謝しています」
カルメンは毎日のようにパンを毎朝持ってくる。
無償で子供達に焼きたてのパンを振る舞ってくれていた。
クロワッサンの香ばしい匂いにつられて、子供達がぞろぞろとドアの前に集まってきた。
「皆、カルメンさんにありがとうと元気にお礼を言うんだよ?」
マークが子供達にそう言うと「カルメンさんありがとー」と子供達は大きな声でお礼を言った。
バケットに入った12個のクロワッサン。
カルメンは毎朝律儀に決まって12個のパンを持ってきてくれる。
子供とチャリー夫妻を合わせ12個だからである。
マークが申し訳なさそうにお礼を告げ、カルメンは笑いながら手を振って帰っていった。
軽くパンパンと手を叩き、「手を洗ってから朝食にしよう」とマークは言った。
子供達がリビングに向かった後、
「毎日毎日よく来るわ」
小言のように呟いたのは妻のカレン。
「カルメンさんの善意にそんな事言うなよ」
「ふん、善意なもんか。あれは自己満足でやってるだけだよ」
鼻で笑ってカレンは言った。
「子供達に聞こえるから止めろ」
そう注意するマークに対し、カレンはやれやれといった様子でその場を後にする。
朝食を済ませ、マークが合掌すると子供達も合わせて手を合わせた。
食後、食器等を皆が片し、子供達は孤児院の地下へと向かう。
日課の訓練をする為だ。
地下には様々な機具がある。
ダンベルやバーベル、ウォーキングマシーンやサンドバッグ等。
子供達は慣れた動きで各々が筋力トレーニングをする。
10人いる子供達の中には女の子は3人。
その子達も当然のようにトレーニングをしていた。
それがこの施設では当たり前だから・・・
適度に休憩を挟みつつ三時間のトレーニングを済ませ、地下から戻ってくると次は勉強。
パソコンの前に座る子供達。
作られた問題に向かってカタカタと解いていく。
だが、中には勉強が苦手な子供もいる。
ザンクとアルミの二人はいつも嫌そうにしているがマークは特に注意をしなかった。
子供達にはのびのびと暮らして欲しいと思っているからだ。
この日もザンクとアルミはふざけあっていて勉強に集中していない様子。
それを不満気な表情で唇を尖らせエリザが注意する。
「アンタ達、少しは黙ってよ!」
ザンクは軽く舌打ちをしてエリザに向かって変顔をした。
「クソガキ」
エリザはボソッと呟いた。
「女の娘がそんな言葉遣いしちゃ駄目だよ?」
背後からマークが朗らかに笑いながら言った。
「・・・ごめんなさい」
渋々といった様子でエリザは謝った。
素直に謝るエリザの頭を優しく撫でるマーク。
ザンク、アルミの二人はその様子に申し訳なさそうにしている。
マークはそんな二人を見てニコリと微笑んだ。
「僕達も・・・うるさくしてごめんなさい」
ザンクがそう言うとアルミはペコっと頭を下げた。
マークは滅多な事では怒らない。
その逆で婦人のカレンはいつもカリカリしている。
その為、子供達からは畏れられていた。
夕刻まで勉学に励み、お風呂に入り、夕食を済ませ就寝する。
大人一人が入れるサイズのカプセルがあり、子供達はその中で寝ていた。
10機並べられたカプセルのドアを開け、仲の良い者同士が互いに「おやすみ」と告げ、カプセルの中に入っていく。
皆がカプセルの中に入ったのを確認するとマークはパチンと灯りを消した。
これがフリーラインでの日常。
来る日も来る日も同じような毎日を過ごす子供達。
それが日常となって時は流れてゆく___
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