16

「お前・・・この村の住人、何人殺した?」


 オルガは問う。


「・・・・・五人位」


 暫くの間を置いてスチルは答えた。


「その殺した奴らには何とも感じて無いのに、パン屋の二人は駄目なのか?」


「それは話しが違うだろ!!」


「違わないだろ」


 一呼吸置くスチル。


「違う!!」


 呆れ顔で舌打ちをしてオルガは言った。


「現実から目を背けるなよ?」


「お前みたいな奴にそんなこと言われたくないね。人殺しを楽しんでやってる変態野郎が!」


 オルガは笑う。

 小馬鹿にした笑みを浮かべ、スチルに言った。


「俺が楽しんで殺そうが、お前が嫌々殺そうが結果は一緒なんだよ」


「黙れっ!!」


「お前のその行動は・・ある意味俺なんかよりタチ悪いぞ?」


「お前なんかと一緒にすんな!」


「ヘドが出る。お前のその考えは、あまりに感情的過ぎるな」


 そう告げてオルガは立ち去る。

 反論する言葉が見つからないスチルは下を向き大粒の涙を流した。


大粒の涙と降り注ぐ雨が混じり、スチルはその場に立ち尽くした。


 次なる標的を求めてオルガは走る。

 オルガは人を殺める事になんの抵抗も無かった。

 率先してチャリー夫妻の命令に従ってはいるが、任務の遂行より高揚感が勝っていた。

 幼少の頃から一人を好むオルガは変わっていた。

 フリーラインで過ごす仲間達とは打ち解けようともせず、誰とも仲良くなろうとはしなかった。

 誰も信用せず、自身の宿す神獣エンドレスですら、ただの利用価値のある道具程度にしか思っていない。

 孤立を好む期間が長いがゆえ、余計にオルガを卑屈な性格にさせていた。

 歩み寄ろうとするスランやザンクも拒絶して、一人の殻に閉じ籠っていた。

 一匹狼を好んだというより、単純に人と接するのが苦手であり、長い間一人でいる事に慣れてしまい、歪んだ性格になっていた。

 そんなオルガにもマークとカレンの二人は優しかった。

 二人の期待に応えることが出来る上、鬱憤を晴らすかのように住人を殺害する。

 オルガにとっては最高の任務であった。

 今日という日はオルガの人生を劇的に変えた。


 逃げ惑う住人の表情、命乞い、人の顔面を潰した時の音、それらがオルガには堪らなく痛快だった。


 この任務が開始されてから僅か一時間の間に、一切の躊躇もなく37名の命を奪っていた。


(楽しい楽しい楽しい・・・俺が殺す殺す殺す)


 オルガの表情はニヤけていた。

 フリーラインに来てから、楽しいと思える出来事が一切といっていいほど無かったオルガにとっては、この任務に最高の喜びを感じていた。

 


「エンドレス!!」


 現れたエンドレスの背中に乗り、玉ねぎ頭から生えた長い白髪を引っ張りながら走る。

 大きな岩影に隠れている三人の家族を発見する。

 20代の夫婦と幼い息子は、オルガとエンドレスが猛スピードでやって来るのに気づくと一斉に走り出した。

 オルガはエンドレスから離れ指示を送る。


 高くジャンプするエンドレスは拳をグルグルと回しながら三人の前に立ちはだかる。


 まだ幼い息子は泣きじゃくるが、夫の方が息子を抱き抱え叫んだ。


「に、逃げるぞ!!こっちだ!!」


 それを聞いたオルガは小さく笑いながら呟いた。


「逃がす訳ねぇだろ」


 両腕をグルグル回し、地団駄を踏み助走をつけるエンドレス。


 土を抉るその音が、夫妻を一層ゾッとさせた。

 目にも止まらぬ速さで三人の目の前までやって来ると、ケタケタと不気味な笑い声と共に三人を殴った。

 逃げる隙も避ける隙も与えず、三人の頭は粉々に砕かれた。

 頭蓋を砕く鈍い音が、オルガにとっては快感だった。


 瞬く間に三人を殺したオルガ。


「ふーふーふー」


 首から上が無くなった三人の遺体を見て興奮を抑え切れないでいる。

 遺体から大量の血が出ているのを見てあざ笑った。

 人の人生を奪った張本人が自分だということに酔っていた。

 殺された遺体の胴部を足で踏みながら、ヨダレを垂らすオルガ。

 ひとしきり余韻に浸った後、次なる標的を求めて、オルガはまた動き出した。

 


 

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