第4話 求緑のたぬき症候群

「俺、1日1回緑のたぬきを食べないと死ぬ身体なんだ」


 切っ掛けは軽い気持ちで吐いた嘘。

 俺は緑のたぬきが大好きで、毎日食べていた。

 細くコシのある麺、ふわふわの天ぷら、おつゆ……どれをとっても好きだった。

 だが。

 それを見かねた友人に「そんなインスタントばかり食べていると身体を壊すぞ」と言われたのがカチンと来て、つい嘘を吐いてしまったのだ。


「何だそれは。そんな病気があるのか」


 友人は困惑したような、薄笑いのような表情を浮かべて俺の言葉を聞いた。

 何を馬鹿な事を言ってるんだ、という感じだった。

 俺は引っ込みがつかないものを感じ、そのまま嘘を吐き続ける。


「ホントだって。求緑のたぬき症候群って言うんだ」


「求緑のたぬき症候群~?」


 友人の懐疑の声音はより強くなる。


 俺はますます引っ込みがつかなくなり、強弁した。


 友人は俺の言葉を鼻で笑い「そんな病気あってたまるかよ」と一蹴する。



 その日はそれで終わった。



 数日後。


 その友人が改まった神妙な顔で俺のところにやってきた。

 そして一言「すまんかった」と頭を下げた。


 ワケがわからなくなった俺。


「一体何だ?」


「こないだお前の事を嘘吐き呼ばわりしてすまんかった」


 ??

 こないだ?


「新聞で読んだよ」


 友人は続けた。


「求緑のたぬき症候群って病気、本当にあるんだな」


 求緑のたぬき症候群……。

 俺も忘れていた自分の吐いた嘘。


 マジか……。


 俺は信じられないものを感じ、絶句する。


「お前の気持ちも知らないで、俺は……自分が恥ずかしいよ」


 友人はそこまで言って、段ボール箱を取り出してきた。


 中にはぎっしり「緑のたぬき」が入っていた。




 その後。


『近年増えてきている難病・求緑のたぬき症候群について政府は~』


 テレビの情報番組でも特集されていて。

 どうやら求緑のたぬき症候群という病気は本当にあるらしい事が分かった。


 症状は俺の言った通り。

 1日1回緑のたぬきを食べないと呼吸ができなくなって死ぬ。


 そんな病気らしい。


 難病指定されているらしく、原因不明とのこと。

 誰でもなる可能性のある病気だそうだ。


 俺はどうなんだろう?


 自分で言い出した事だけど、俺には自分が求緑のたぬき症候群なのかどうか分からなくなっていた。


 切っ掛けは苦し紛れに吐いた嘘。

 本当にはそんな病気は無い。


 あのときはそう思っていた。


 でも今は、実際にある病気だと知ってしまった……。


 俺の緑のたぬき好きは性癖なのか、病気のせいなのかわからなくなってしまっていた。

 もし本当に病気だったらどうしよう……


 俺は今日も緑のたぬきを食べている。

 前は好きだからだったけど、今は違う。


 1日でも飛ばすと命を落とすかもしれない。

 その恐怖心で、だ。


 美味いけどな。

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