第20話 巻き戻し
妻との間に出来た子供ふたりが俺の子供じゃ無かった。
多分、社長の子供だ。
……切っ掛けは、10才になった長男がどうにも社長に似てる気がして。
疑念がどうしても拭えず、DNA検査をした。こっそりだ。
……すると。
少なくとも、俺の子供じゃないことが分かった。
それが分かったあと、もうひとりの娘の検査もしてみた。
そっちも、少なくとも俺じゃない。それが分かってしまった。
妻は元々俺の上司で。
才女。給料も俺より多かった。当然だけど。
そしてすごい美人だった。
俺はそんな彼女の下で一生懸命仕事をし、必死で喰らいつく感じで頑張ったら。
俺の頑張りを認めてくれて。
そこで好きになり、告白したらOKを貰えた。
真面目に頑張る男は父親の品質が信頼できる。
それが彼女がOKを出した理由らしかった。
頭良い理由だなと思い、彼女らしいと俺はそのとき感心したんだ。
結婚はその後すぐ。
交際期間は要らない。あなたという人間は、すでに十分見せて貰ってる、って。
そして職場結婚し。
俺たちは夫婦仲良く仕事をする、夢の様な仕事場になった。
だが
そんな彼女がある日、社長付の秘書に抜擢された。
同じ職場で働けなくなる。
俺はそのとき、寂しさを感じていた。
だけど……
俺はその後、社長の右腕のような役職……経営戦略部の部長の地位に抜擢されたんだ。
仕事が一気に忙しくなった。
地位が上がると責任が増える。
毎日勉強の連続で、クタクタだった。
だけど、子供は早めに作らないと後で確実に困る。
なので、妻に「排卵日になったら集中的に頑張ろう」って言って。
対応をお願いした。
そしたら。
待望の子供が出来た。
嬉しかった。
嬉しかったのに……
その子が、俺の子じゃ無かった。
長男も長女も、俺のことを慕ってくれている。
可愛かったのに。
「……ククク」
魔法陣の上に立ち。
俺を見下ろし、笑っている。
黒づくめのそいつ。
そいつは言った。
「お前が部長になれたのは、お前の妻がお前の雇用主の愛人になった見返りだ」
……だから?
そんなの、ただの「裏切りの申し訳」だろう。
一考に値しない。そう思ったが。
俺は黙っていた。
俺は……悪魔を召喚していた。
俺は俺の人生を取り戻したい。
社長と、あの女の裏切りで奪われた俺自身の人生を。
そしてそんな願いは、人間にはどうやっても叶えられない。
……悪魔に頼るしかない。
呼び出した悪魔……本人曰く、魔王……が言う。
「願いは……お前が今の会社に入社する前までに、時間を巻き戻して欲しい、だったな」
そうだ。
……俺は、あのとき2社内定を貰っていた。
最終的に決めたのは、今の会社の方が1000円初任給が高かったからだったけど。
たった1000円のせいで、俺は人生を奪われた。
なんという愚かしい選択だったんだ。そこをやり直したい。
「ああ、すぐに頼む」
俺は頷く。
それを見て、悪魔は嗤う。
「……本当に、良いんだな?」
……何が?
「……お前は、どうせ巻き戻って無かったことになるからと」
そこで悪魔は魔法陣の中に流れている血液の供給元を指差した。
……頸動脈を掻き切って、絶命させた2人の子供。
「躊躇い無く捧げたようだが……言っておくが願いを叶えたら魂を貰うからな?」
最高に愉しそうな顔。
そして俺の反応を愉しむように、続けた。
「この2つの魂を」
「だから?」
……何故か、悪魔の顏が引き攣った気がした。
気のせいかな?
そんなの、ただの「動物がひり出した魂」だろう。
一考に値しない。
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