第21話 シミュレーションRPG王国の四騎士

 私は王国の四騎士のひとりである。

 四騎士とは、王国の守護を担う最強戦士の称号だ。

 それぞれ、神剣、神槍、神斧、神弓を国王陛下から託されている。


 私は神弓を託された弓聖。


 弓聖は、鍛え抜かれた弓騎士が陛下の認証をもって就く位。

 言うなれば上級職だ。


 そして神弓は。

 射た矢が5つに分裂し、敵を射抜く神の弓。

 そしてその矢はいくら射ても尽きない。

 弓を引き絞るときに、自動で出現するのだ。


 神弓は私の誇りだった。


 王国は数百年に1度、魔界からの侵略がある。

 魔王が王国に攻めてくるのだ。

 前回の侵略は234年前。

 その際も、大変な被害があったらしい。

 王国騎士団は、常にそのことを頭に置いている。



 そしてついに、その日がやって来た。

 魔界からのゲートが開かれ、魔王軍がこの王国に攻め込んで来た。


 それで


「何だって! 王都が魔王軍に電撃的に攻め落とされた!?」


 伝令兵の持ってきた情報に、私は動揺した。

 追加情報で、陛下が討ち取られ、崩御された旨が書かれてあったからだ。


 ……幸い、王太子殿下がご無事だそうだが。

 ……陛下の護衛には、槍聖の女騎士がついている。

 あいつは女としての幸せを捨て、武に打ち込んで来た一流の聖騎士パラディンだ。


 きっと、守り切ってくれるはず……。

 私が合流するまで頼む……!




「王太子殿下! お久しぶりです!」


 私はとうとう殿下の率いる王国軍に合流することが出来た。

 長かった。

 手間取ったのだ。魔王軍の尖兵たちとの戦いで。


「よくぞ生きていてくれた。私は嬉しい」


 殿下……いや、今は陛下と呼んで良いお方……はそう仰られた。

 お優しい言葉だ。

 王者の風格を感じる。


 そして陛下は


「早速だが、神弓を返却してくれ」


 そう仰られた。

 ……有無を言わせぬ口調だった。




 どうやら私が合流する前に、陛下は狩人で食べていた在野青年を兵士として招き入れたらしい。

 そいつが、ものすごく優秀で。

 めきめきと実力をつけ、瞬く間に私と同じ弓聖になった。


 で


「悪いが、どう考えても神弓はお前よりも彼が持つべきだと判断した」


 ……上に立つ者は非情にならなければならない。

 当然の判断なのかもしれない。


 実際、私は神弓の分裂矢を、同時に3発命中させるのが精一杯だったが。

 そいつは5つ全部を悉く命中させる腕だったし。


 ……神弓は、私が託された武器だったのに。


 そしてこれは私だけではなく。

 槍聖だった聖騎士の彼女も、神槍を返却していた。

 彼女の場合は、部下だった後輩の槍騎士が上級職に昇格し、追い抜かれたのだ。


 斧聖も、剣聖もだ。


 最終決戦時。

 魔王との戦いに参戦したメンバーに、王国四騎士は1人も居なかった。


 そして。

 戦争が終結した。


 国王に即位した陛下に付き従っている四騎士は、全員別の人間に入れ替わっていた。

 ……元槍担当の四騎士、つまり女騎士だけは、殿下と戦争中によろしくやったのか、何故か王妃に収まってやがったが。

 畜生。女はいいなぁ! 王様と結婚できるもんなぁ!


 ……俺は荒れた。

 なんだか、周囲の人間が俺を腫れ物のように扱っている気がする。

 クスクス笑われている気がした。


 畜生。馬鹿にしやがって。


 あまりに辛くて酒に逃げ、仕事中も飲んでいたら


「お前はクビだ」


 ……解雇された。


 そして今、昔の貯金を切り崩しながら生活している。

 新しい仕事を探さないといけないのだけど……


 元四騎士のプライドが邪魔をして、どうしても仕事の選り好みをしてしまう。


 戦争なんて起きなければ良かったのに。

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