第3話 ログアウトできなくなった

 フルダイブ型VRRPG~ソードランドオンライン~


 世界的に流行っているゲームだ。

 ゲームの世界に5感をフルダイブさせ、まるでそこに自分が居るような感覚でRPGが楽しめる。


 俺はそのゲームのエースプレイヤー。


 現実世界ではパッとしない俺でも、このゲームの中だけはヒーローになれる!

 強敵をばっさばっさと打ち倒し、強力な装備に身を固め。

 誰もが俺に注目している!


 フリータイムのほぼ全てをこのゲームにつぎ込み、俺は楽しんでいた。


 そんなある日の事。


『ログアウトに失敗しました』


 1日のゲームを終え、ログアウトしようとしたときのことだ。

 突如そんなメッセージが出て、ログアウトが停止されてしまった。


「何だ? どうなってる!?」


 俺以外にも数人、同じような症状が出ているプレイヤーが居るらしく、皆焦っていた。


 ゲームから出られない! どうすればいいんだ!


 たまらず運営に連絡を入れると、運営からメッセージが届いた。


『大変申し訳ございませんが、一部のプレイヤー様にログアウトできないという不具合が出ております。原因は現在調査中です。』


 何だって!?

 冗談じゃない!


 ログアウトできない間の俺の面倒は一体誰が見るんだ!

 ゲームしている間は飲まず食わずなんだぞ!

 命の危険があるじゃないか!


 そんな俺の不安は、次の運営からの言葉で払拭される。


『ログアウト不能期間につきましては、運営よりプレイヤー様の身体の保障はさせていただきます。この度は誠に申し訳ございませんでした』


 あ、そこは保障してくれるのか。

 だったら安心かな。


 俺の本体が保障されるなら、このログアウト不能期間は俺にとってボーナスステージみたいなものかもしれない。

 現実の制約を忘れて、ゲームの世界に没入できるわけだから。


 この際だ。時間のかかるクエストを全部やってしまうかー。

 合成のスキル上げに費やすのもいいな。


 俺は前向きに考えることにした。




 1カ月が経過した。


 ログアウトはまだ出来ない。


 ここに来て、俺は自分の認識の甘さを痛感することになった。


 寂しい。


 ログアウトの不具合が出てから、ログアウト不能になったプレイヤー以外がログイン禁止になり、人が減った。


 人が減ってガランとしたソードランドオンラインのゲーム内で、俺は三角座りして塞ぎ込む。


 人との会話が無い。

 他のプレイヤーは居るには居るが、所詮は見知らぬ人。


 そんな人と、本当に親しく話す事など出来ない。


 それに、俺はこの1カ月で気づいてしまった。


 ただ、一緒に居るだけで落ち着く。

 そんな関係の人がここには居ない。


 親はどうしているだろう?

 会いたいよ……母ちゃん。


 母ちゃんとの何気ない会話。

 それがどれだけ俺を癒してくれていたのかを痛感していた。


 現実が恋しい。

 早くログアウトしたい……。


 ログアウトできなくなったと知ったとき、喜んだ自分が馬鹿みたいだ。

 こんなの地獄じゃないか。


 なんて自分は浅はかだったんだろう。

 これに想像が及ばなかったなんて……。


 もし一生このままだというのなら、俺の身体の保障は止めてくれ!


 このまま放置されるくらいなら、死んだ方がマシだ!


 こんなゲーム……するんじゃ無かった!

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