第5話 きのこたけのこ
俺はたけのこ派だ。
たけのここそ一番進化したお菓子だと信じている。
歯ごたえのあるクッキー部分に、甘いチョコレートの部分のハーモニー。
どこをとっても一級のお菓子だ。
なのに。
世の中にはきのこ派という、何も分かってない連中が居て困る。
きのこ派は一掃してしまいたい。それが俺の正直な気持ちだ。
俺は相手がきのこ派だと分かると、必ず議論を吹っ掛け、それで決着がつかないと拳で相手を黙らせて来た。
言って分からない奴はぶちのめすしかない。
真理を聞かせても聞く耳を持たないような奴は。
「何で殴るんだよ」
今日も少し考えれば分かるようなことを分からない馬鹿をぶちのめして身体で分からせてやったんだが。
どうやら殴られたりないらしく、地面に倒れ伏してもまだ口答えのようなことをしてくる。
「お前のような奴がお菓子の進化を遅らせるんだ。その自覚を促すために殴りつけてやったんだよ」
言ってやった。
全く。真理を理解しない馬鹿は始末に負えない。
俺は拳を振り上げながら、きのこ派の馬鹿に近づいて行った。
ヤツはふらつきながらも立ち上がり、割れてずれている眼鏡の位置を直しながらこう言い放つ。
「お前が自分を正しいと思う根拠は何なんだ!」
「そんなことはまともに考えればすぐに分かることだ」
「俺には分からない!」
「だからお前は馬鹿なんだよ!」
俺は腕を振るって拳を叩き込んでやった。
ヤツは吹っ飛んだ。
吹っ飛んだヤツに俺は言葉を叩き込む。
「言って分からないヤツには殴って分かってもらうしかねぇなぁ!」
「……つまりお前の主観なんだな?」
「はぁ?」
よろめきよろめき、立ち上がったヤツは俺をまっすぐに見据えながら言い放ってきた。
俺は訳が分からなくて聞き返すと、ヤツは続けてこう言いやがった。
「お前が正しいと信じているもの、その基準はお前の主観だよな! 他人に自分の主観を押し付けてくるんじゃねぇ!」
主観……一体何のことだ?
「ついに狂ったか」
「狂っているのはお前だ!」
ヤツは続けた。
「お前には物事の正しさの指標が見えているとでもいうのかよ!? 間違っている人間に『間違ってます』という目印でも浮かび上がって見えてるのかよ!?」
「だからそんなことは少し考えれば分かると言っているだろう!?」
「その『考えた』ってのが、お前の主観での話だろうが!?」
何だ!? 何を言っている!?
俺の胸に、むかつきが沸き上がってくる。
訳の分からないことを言いやがって!
「正しさなんて、人によって変わるものを絶対の基準にするんじゃねぇよ!」
もういい、黙れ。
俺は拳をヤツの顔面に叩き込んだ。
どのくらい殴っただろうか。
もはやヤツは動かない。
ざまぁみろ。
俺の正しさを否定するからだ。
否定するからだよ……
畜生。
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