第6話 冤罪ダメゼッタイ
何もやっていないのに罰せられる。
冤罪は絶対に許されない。
俺は常日頃そう思って生きて来た。
政治家を志したのもそのせいだ。
俺は死刑を無くしたかった。
死刑。自らの命で罪の償いをさせられる究極の刑罰。
この国には死刑制度がある。
俺はずっと思っていた。
もし冤罪だったら死刑は取り返しがつかないと。
殺してしまったらもう生き返らせることはできないのだから。
死刑廃止。
それが俺が政治家を志した理由だった。
ただ死刑を廃止する事を目指して。
俺は上を目指し続け、ついに総理大臣になるまでに至った。
総理大臣になったとき。
俺は早速死刑を廃止するべく活動を開始した。
色々あったよ。
「正義の最後の落としどころはどうなるんだ」
とか。
「遺族の気持ちはどうなるんだ」
とか。
雑音が色々と。
全て無視した。
死刑を存続させる害悪の前に、そんな雑音は聞く価値が無い。
冤罪だったらどうするの一言で全て斬って捨て、俺は強引に死刑の廃止を実現させた。
死刑廃止が実現して、これで罪も無いのに取り返しのつかない刑罰で苦しむ人がいなくなる……
そう、思っていた。
死刑廃止と引き換えに導入した終身刑……
これが冤罪だったらどうするんだ?
そこに思い当たってしまったのだ。
冤罪で裁かれて、30年も40年も繋がれた挙句「冤罪でした」
これをされたとき、果たして取り返しがつくのだろうか……?
つくわけがない。
俺はそこに思い当たってしまった。
だから言ったよ。
「終身刑を廃止する」
「そんな!」
「メチャクチャだ!」
猛反対の嵐だった。
しかし、冤罪のリスクを考えれば、この刑罰は廃止しなければならないのは自明の理。
冤罪を理由に死刑を廃止したのだ。終身刑を廃止するのもやむなしだろう。
最終的に納得させ、俺は終身刑を廃止した。
これで罪も無いのに取り返しがつかない刑罰で苦しむ人が今度こそいなくなった……
そう思っていた。
俺はまた、思い当たってしまった。
刑罰を科すこと自体、取り返しがつかない。
そもそも、捜査することが冤罪の元なんじゃないのか。
現行犯で事実関係を争わない案件以外、刑罰を科すことはやってはいけないのでは……
そこに思い当たってしまった。
だから言ったよ。
「警察業務の捜査を廃止する」
……凄まじい反発があったが、冤罪を無くすためだ。
俺は全身全霊を懸けて、現行犯逮捕以外の逮捕の廃止を実現させた。
その後。
犯罪は様相が一変した。
まず、逮捕された犯人が誰も事実関係を認めなくなった。
当然かもしれない。
事実関係を認めなければ、無罪になる目があるのだから。
そして犯罪の検挙率が下がり、治安が悪化した。
不安を煽るだけになるからと、犯罪に関する報道についても禁止した。
すると、ますます治安は悪化の一途を辿った。
どうしてこうなった。
聞けば、闇で晴らせぬ恨みを晴らす仕置人なる商売が、横行しているという噂。
お上が何もしないのであれば、民間でやるしかないというわけか。
……どうしてこうなった!
俺は冤罪で苦しむ人を無くしたかっただけなのに!
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