第26話 横取り40万

 誰かが言った。

 

「昔のクイズ番組でさ、横取り40万ってあったじゃん」


「ああ、他の参加者の点数を40万奪うやつでしょ?」


「そうそう」


 そいつはこう言った。


「あれ、現実でもあったら良いのにね」



 そして。

 今私の目の前に、横取り40万のカードが3枚ある。

 よく考えて使いなさい。

 これを私に与えてくれた眼鏡の知的な初老男性は、そう言い残し。


 私の目の前で……消えた。


 あの男性が誰だったのか、私には分からないんだけど。

 多分、何かしら意味があるはずだよね。

 多分、人間の男性じゃ無いと思うし。


 使い方は一切説明してくれなかったんだよなぁ……


 でもま、なんとなく使い方は分かるよね。

 これは他人から何かを奪うカードなんだよ。


 ……単純に考えると……お金を40万円奪うんだろうか?

 いや、そんな単純なものじゃ無い気がするなぁ。


 とりあえず私は鞄にそのカード3枚を忍ばせて、次の日学校に行った。

 私は高校2年生だ。


良子よしこ、おはよー」


 教室に入ると、友達の布津子ふつこが私に挨拶してくれる。


布津子ふつこおはよう」


 挨拶を返す。

 とても気分が良かったのだけど、数秒後、すぐにムカつくことになった。


仏雄ふつお君!」


 布津子ふつこの彼氏の仏雄ふつお君に、隣のクラスの風紀委員長の倭流子わるこが、言い寄って来たからだ。


 ……この女、風紀委員長でありながら、Hカップは女の王なのだから、望みの男を手に入れるべきだという思い上がった思考に至り、Eカップにこんなイケメン彼氏は勿体ないと毎日言い寄りにやってくる。


 許せないと思った。


 仏雄ふつお君もあんな女、ピシャリと言ってやれば良いのに、どうも彼女が逆上してくるのが怖いらしく、ハッキリ言えない。


 ……不愉快極まりないよ。

 思い知れ性悪女!


 なので私は、つい衝動的に。

 倭流子わるこに横取り40万を使ってしまった。




 ……その結果。


 私はAカップからEカップになり。

 倭流子わるこはDカップに転落。

 そのため乳位階が下回り、あの女の歪んだ自信の下地が潰えた。

 一般にブラのカップ数はそのまま聖闘士セイントの位階にそのまま例えられると言われているので。

 Eカップ2人に、Dカップ1人で立ち向かえるわけがない。

 泣きながら退散していった。

 ざまぁみろ。


 そして……ここで、分かったことは。

 横取り40万は、どうやら相手から奪いたいと思ったものを、4段階奪い取る効果があるカードのようだ。しかも、奪っても奪った事実を誰にも気づかれない。

 私の胸も、いきなり巨乳化したのに誰も気に留めなかったし。


 ……あの眼鏡の男の人、とんでもないものをくれたよね。

 残り2枚、どうしよう……?


 このカードは、他人のものを奪うカード。

 使うときは、私に正義があるときにしよう。

 しばらく考えて、それを決めた。


 4年経った。

 今、私は一流大学に通う女子大生になっていた。

 あの後……


 成績マウントがウザったかった男子学生が、大学合格を決めたとき。

 制裁するためにまた1枚使った。


 彼は誰もが名前を知るあの有名大学に入学を決めたはずなのに、4段階下がって何のネームバリューも無い普通の大学の大学生になった。


 そして今、私の手元には1枚の横取り40万カードがある。


 ……ここに至って。

 このカードは貰うべきでは無かった。

 私はそう思えるようになっていた。


 ……だって。

 空しいんだもの。


 何の努力も無しに、降って湧いたものって。

 手に入っても嬉しくない。

 頑張って手に入れるから嬉しいんだ。


 このカード、捨てようか……?

 そう思ったりもしたけど。


 効果が効果だけに、悪用されたら悲惨過ぎる。

 私は悪人にしか使わなかったけど、他の人もそうである保証なんてあるわけないんだから。


 そうして、悩みながらカードを持ち続けていたら。


「おいおい、俺の酒が飲めないのかよ。すーぐ潰れやがって」


 所属しているサークルの忘年会で、サークル内で影が薄かった男の子が、陽キャ男子のノリを断り切れず大量に飲まされて、ぶっ倒れていたんだ。


「ちょっと! 陽炎かげろう君、救急車を呼んだ方がいいんじゃないの!?」


 私のお姉ちゃんが看護師で。

 急性アルコール中毒だとか、意識レベルだとか。

 私はそういう医療知識を断片的に聞いていた。


 だからこれは危ないのではないかと思ったんだけど。


「大丈夫だよこれくらい」


「大げさだよ」


 陽キャの男子たちはヘラヘラ笑いながら、取り合ってくれない。

 陽炎かげろう君を隣の部屋に引っ張って行って、そこで寝かせて解決しようとした。


 ……これは駄目だ。

 この人たち、陽炎かげろう君をまともに見ていない!


 そう思った。

 思ったから。


 私は最後の横取り40万のカードを使った。



 ……気がつくと、知らない天井だった。

 私はあの後、いきなり急性アルコール中毒の症状を示し。

 慌てた皆が、必死で救急車を手配してくれたらしい。


 ……良かった。


 私はあのとき、アルコール中毒を奪うために横取り40万を使ったんだ。

 そして、陽炎かげろう君の症状をそっくりそのまま奪い取った。


 ……このカードはこういう使い方をするべきだったんだね。

 そのことを私はようやく理解した。

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