第17話 進化した吸血鬼

 吸血貴族が出現してから数百年経った。


 吸血貴族……彼らは、伝説の吸血鬼に限りなく近い存在だった。

 十字架や聖水といった、宗教要素の弱点が無効である以外はほぼ同じで。

 太陽の光を嫌い、許可の出た家にしか侵入できず、流れる水を渡ることができず。

 そして怪力を持ち、再生能力と霧に変化する能力、そして蝙蝠や狼に変身する能力を持つ存在だった。

 無論、当然のことながら、彼らは吸血し、その被害者は人間の心を無くした吸血怪物へと変化する。


 最初、彼らは人類を家畜化することを目論み、戦いを挑んで来たが。

 数百年、戦い続けて。


 ある日、彼らは言った。


「もう戦争は止めよう。お前たちの底力は充分思い知った」


 人類はそれを受けて


「そんな言葉に騙されるか! 我々が家畜にならないとお前たちは困るんだろうが!」


 長年の戦いで「共存は不可能」と結論付けていた人類。

 最初は信じなかった。


 だが


「……我々の方で、我々を品種改良した」


 そう、言ったのだ。


 彼らはこう言った。

 これまでの我々は、血液を飲むことでしか生命を繋ぐことができなかった。

 だが、品種改良を行い、それを「体液なら何でも良い」という風に拡大したんだ。


「というと……?」


「ぶっちゃけ、愛液でも精液でも良い」


 ……人類側は騒然とした。

 何故なら、吸血貴族は男も女も、全て美形揃いでしかも外見は16才から30才までしか居なかったからだ。


 特に独身男性が喜んだ。女性吸血鬼にタダで相手してもらえるので、財布が喜んだ。

 男性吸血鬼は、独身女性の相手も勿論あったが、独身の同性愛者男性も良いお客さんだった。


 そして種族が違うので、彼らと人間の間では受精が起こらない。

 ライオンと虎の間で、ライガーという雑種が存在するが、人間と吸血鬼の間ではそれが無かったのだ。


 あまりにも、人間相手に都合がいい状況になったので誰かが訊いた。


「キミら、性の捌け口になってる状況だけど、それで平気なの?」


「それはキミたちの感想だな。私たちとしては、食糧の種類が変わっただけの話だ。……例えば、キミたちは牛肉を食べるが、これからは内臓肉であるサガリやハートしか食えないぞと言われても、それほど屈辱は感じまい?」


 そんなもんなのか。

 人類はそれで納得した。


 ……世の中に平和が訪れた……


 かに、見えた。


「吸血鬼滅すべし!」


 ……元々、売春で生計を立てていた人間たちが一斉蜂起した。

 吸血鬼の進化は、彼らにとって特定外来種、産業の破壊者だったのだ。

 だって、タダだもん。


「パパ活部隊、A地区の吸血鬼を殲滅しました!」


「泡姫部隊、B地区の殲滅に苦戦中! 至急応援を!」


 

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