第50話 鳥の夢
体育館で青い烏になってさくらんぼを食べる、という夢を見た。
これはどういう意味だろう?
気になって少し調べてみた。
何かを食べる夢というのは、私生活が充実していることのサインらしい。
では、さくらんぼを食べるという夢は……
それを調べると、恋愛のチャンス到来という意味。
マジか。
じゃあ鳥になる夢というのは……
ほほう、解放ね。
なるほど、なるほど……。
体育館の夢というのは……
うん。なるほど……
体育館で1人でいる夢ってのが、該当しそうだな。
日々の生活に満足していない。
こういう意味か。
なるほどなー。
まとめると……
俺は私生活に満足しておらず、解放を求めてて、そこに恋愛のチャンスが訪れていると。
……うん。
心当たりはある。
俺は今の会社で10年くらい勤めてるんだけどさ。
日々の生活に変化が無いんだ。
毎日毎日、同じことの繰り返し。
周り、男ばっかり。
変化は無いけど、忙し過ぎて休めない。
そして女はいても、パートか派遣のおばさんばかりだ。
……正直さ。
この状況で俺の人生大丈夫か?
そう思ってはいたんだ。
給料は良いんだけどな。
そこにこの夢。
これはもう……
彼女からの誘いに乗れと。
そういうことなんだな?
「五味山さんですね?」
激務の中、いきつけの酒場で飲むことだけが楽しみだった。
そんなとき、そこで彼女に話し掛けられたんだ。
……俺の好みドンピシャの女性だった。
なので、突然話し掛けられたけど、受け入れてしまい。
一緒に飲んでしまった。
その中で
「私どものところに来てもらえないでしょうか?」
そんなことを言われたんだ。
え、と思ったよ。
ヘッドハンティングというやつか?
でも……
「俺を引き抜く意味ってあるんですか?」
そこが疑問だったので、問い返した。
すると
「あなたが欲しいんです」
俺は……
別に研究者じゃ無いんだよな。
研究者だったら、抱えている秘密目当てでこういう引き抜きもありえると思うけど。
じゃあ、目的って何なんだろうか?
自慢じゃないが、俺はリストラ候補にはならない程度で、言うほど優秀じゃないぞ?
そこで困惑し、俺は
「ちょっと考えさせてくれ」
そう言って、保留にしたんだ。
だけど。
俺の心は決まった。
この夢が俺を後押ししたんだ。
なのであのとき、教えられた番号に俺は電話を掛けた。
そして、今がある。
俺が勧誘されたのは遺伝子の研究所で。
俺の血筋由来の人格面の安定性と、協調性、強めのモラルが評価されたそうだ。
どうも、俺の血筋にはそういうのが居ないらしいんだわ。
だから引き抜かれたみたい。
何のためか?
人間の遺伝子を持つキメラ動物を作る際、その生物が邪悪な性質を持たないように、らしい。
研究所は人間並みの知性を持つ動物を作りたいらしいんだけど
動物が「人間の出す複雑な命令を理解できる程度の知能」を持てばいいので、そこには「素晴らしい作戦を考案する知能」「斬新なアイディアで事態を打開する発想力」そういうのは要らないんだと。
そんなのより、人間に反逆しようとか、自分の利益を増やすために世話になった人を裏切ろうとか。
そういうことをしない人が欲しいんだって。
で、俺の普段は研究所で事務仕事をし
「五味山さん、今日の分をお願いします」
俺を引き抜きに来た彼女に連れられて、遺伝子を取られる。
まあ、前の職場にいたときよりずっと幸せ。
だけど……
たまに、思うんだわ。
俺の遺伝子を組み込む生き物、鳥なんだよね。
青い鳥。
小さめの鳥で……軍隊に納入する偵察用のキメラ生物らしいんだけど。
こいつ、俺の意識を持ってたりしないのかな、と。
あのときの夢……
こいつらが見ている世界の話だったりしないかな、と。
人の意識を持って、身体を鳥に変えられる……
それ、俺は嫌だと思うんだよね……
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