第42話 継承

 俺たちはずっと塔を作っている。

 天に届こうという塔を。

 来る日も来る日も、ずっとだ。


 毎日、建材部が錬成した建材を積んで行くんだ。


 消耗が激しくて。

 夏はもちろん、冬でも汗みどろになる。

 汗で服が背中に張り付いて気持ち悪い。


 この塔の建設目的は、天界に軍隊を送り込むための通路。

 そのために、建てられている。


 天界に攻め込み、神を滅ぼすために。


 この計画は、2回察知された。


 1度めは、普通に塔を建てていたとき。

 表向きは「天界に参上し、神々を直接讃えたい」

 そんな言葉を並べ立てて建てていたんだ。


 俺たちは虐げられていた。

 被創造物だからと、その意向に少しでも背くと、塩の柱に変えられたり、輝く炎に焼き尽くされたり。

 容赦ない制裁を受けた。


 ときには


「創造主への真の感謝があるか?」


 こんな残酷な思い付きで、重大な病にされて、死ぬまで苦しみ抜いた奴もいた。

 重大な病に掛けられても、死ぬまで「創造主様は悪くない」と言い続けられるかどうかを試したんだ。


 ふざけてる!


 いくら創造主だからといって、やっていいこととそうでないことがある!

 俺たちは、自分たちが創り出したからと、我が子を奴隷や玩具にしたりしないのに。


 もうこうなったら、神々を倒すほかない。

 それが俺たちの結論となり、この計画が立案されたのだ。


 だけど……阻止された。

 破壊されたのだ。その建設中の塔を。


 同時に、俺たちの言語も破壊された。

 それまではたった1つの言語しか無かったのに、100を超える別種の言語に分裂した。


 そのせいで、俺たちは意思の疎通が取れなくなった。


 困ったよ。

 これでは神々を倒すための塔を建てることができない。


 それだけでなく、意思の疎通が取れなくなったせいで、言語の違う人間との間に、溝が生まれた。

 そのせいで殺し合いが起きそうになったり、実際、起きた事例もあったんだ。


 世界に争いが生まれた。


 神々は「我らを崇めよ。この世は修行の場。今の苦しさは素晴らしき来世のための功徳と知れ」と言っていたけど。

 何が功徳だ。


 お前たちは俺たちを退屈しのぎで虐待してるだけだろ。


 まあ、さすがにこれまではやり過ぎたと思ったのか、前ほどの理不尽さは連中から無くなった気がするが、正直胡散臭い。

 ほとぼりが冷めたら、きっとまた元に戻るに決まってる。


 いわしと言う魚は、小さくて弱いが、群れに群れて、大きな魚群になる。

 そうやって、大きな捕食者に立ち向かって行く魚だ。


 人間だってそうあるべきだ。

 言語がバラバラにされたけど、そんなことで負けるもんか。


 ……そして俺たちは根性で言語を再度統一した。

 共通語というものを作ったのだ。


 そしてまた、塔を作り始めた。

 今度は「神々の創り出した素晴らしい世界を高みから見渡したい」と言いながら。


 だけども。


 誰もその本心を言わなかったハズなのに。


 また塔は神々によって破壊され、俺たちが必死で組み上げた共通語もその力で消し去られた。


 ……ここで俺たちは気づきに至る。


 神々の前では、隠し事は不可能なのだ。

 本心を隠して塔を建てても、その本心を必ず見抜かれ、破壊されてしまう。


 だったら、もう……


 俺たちは最終手段をとったんだ。


 俺たちは自分の子供たちに


「神々には決して逆らうな」


「神々は我々を愛しておられる」


「なので神を讃えるための塔を建てろ」


 そう、教えた。


 ……無論、全くの出鱈目だ。

 子供時代なら騙せるかもしれない。

 けど、大人に成れば分かるはずだ。


 そんなのは戯言だってことに。


 その上で「泣く泣く」神々を讃えるための塔を建てる。


 その構図。

 これならば、きっと塔が天に届くまで建てられる。


 何故なら一応本心から神々のために起こす行動なのだから。


 そして、塔が天に届いたら、我々が心に秘めて来た真の目的が子孫たちに届く仕掛けを作っておこう。

 きっとそのとき、子孫たちが俺たちの意思を汲んでくれるはずだ。


 頼んだぞ……我らの子孫たちよ……!



 ……そして1000年が経過した。



 今日、俺たちの先祖が1000年前に建設を開始した天まで届く塔「バベル」が完成する。


 皆、大喜びだ。


 やっと我々を創造した神々に挨拶が出来る。

 これまで苦しかったよ。

 

 皆、待ち望んだ。


 完成の報告を。


 そして


「届いたぞー!」


 誰かの叫び。

 ワッ、と湧く。


 1000年前からの悲願が、今日やっと叶えられたんだ!




 そして俺たちは、天界に使節を送った。

 帯剣し、統率された動きをする、訓練された軍隊を。


 かくいう俺もその1人。


 天界……どんなところだろう?


 胸を期待で膨らませ、俺は天界に続く扉を潜った。


 そこは素晴らしい場所だった。

 光り輝き、清潔で、空気が澄んだ極楽浄土。


 おお……ここが創造主の世界。


 思わず感涙しそうになる。


 けれど……


 その瞬間、俺の脳に、存在しない記憶が駆け巡る。

 それは1000年前の物語。


 どれだけ創造主たちが、俺たちを苦しめて来たか。

 泣いて来たか。


 俺たちが真に自由になるためには、創造主たちを倒さなければならない!


 お前たちは天界に武器を持って足を踏み入れた!

 今すぐ天界を滅ぼすんだ!


 そして俺は全てを知った。


 知った上で……


「……はぁ?」


 思わずそんな声が出ていた。

 ホントかどうか分からないけど、神々は昔、酷く残酷なことしたらしい。


 だけど……


 人間側にも何か問題があったんじゃないの?

 くだらない。


 そんな1000年前のカビの生えた恨みつらみを、なんで俺たちが晴らさなきゃいけないんだよ。

 

 全くわがままな!

 俺たちはお前たちの道具じゃない!

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