第32話 復讐の女神
ある日、私が推しのツアーの追っかけ旅行から自宅マンションに帰宅すると。
家が空っぽになっていた。
家財道具が一切合切、無くなってて。
まるで売りに出されているマンションみたいになっていた。
「ユージ?」
ユージというのは、私の旦那だ。
職業は機械工業会社の研究者。
東大を出て、院まで出た後にストレートに就職をしたエリート研究者で。
役職は主任研究員。
友達には羨ましがられて気分が良いけど。
実際に稼いでいる額を言うと「なーんだ」って言われるのが目に見えているので黙っている。
それだけが不満点。愛すべきATMとして。
そんな彼が、家に居ない。
今日は日曜日だから、家にいるはずなのに。
どういうことなの?
いや、家もおかしいんだけど。
状況が受け止めきれず、自宅の部屋を探し回っていると。
寝室だった部屋に、一通の手紙が放置されていることに私は気づいた。
……なんなの?
困惑したが、これを読めばこの状況の意味が分かるかもしれない。
私はそれを拾い、電気をつけて内容を確認した。
そこにはこう書かれていた。
この手紙を読んでいるお前はさぞ困惑しているだろう。
お前が推しを応援するために、僕の稼いだ金を使って旅行に行ってる間。
僕はセコセコ手続きを進めて、このマンションを売却する手続きを進めた。
正直、ざまあみろとしか言えない。
どうせお前は「酷過ぎる!」って言って泣き喚くのだろうね。
もう、ウンザリだよ。
思えば、結婚した翌日にお前が仕事を辞めて来たことを見逃したことがそもそもの間違いだった。
何で辞めたんだと僕が問い詰めると、お前は「アンタの稼ぎで十分生きていけるでしょ」の一点張り。
就職しないと離婚だと言うと「無職の女を放り出すなんて人間としておかしい」と言って大暴れ。
争うのが嫌だったから、目を瞑ったのをお前は「我を通した」という歪んだ成功体験に変えたよね。
そしてその後も最悪だった。
専業主婦になったのに、ろくに家事をやらず「男女平等だから家事は分担」と言い出して。
家が汚れても、洗濯ものが溜まっても、ほったらかし。
見かねて僕が片付けると、それが常態化した。
そして僕の食事も作らなかった。
これも僕が外食することでそれが常態化。
こうなると、お前の役目は僕の子供を産むことくらいしか残って無いのにそれも拒否。
理由は「子供嫌いだし、妊娠したら推しのおっかけがやれなくなる」だっけ?
舐めんな。
だったらお前が僕の妻の地位に居座る意味って何なんだ?
そう言ったら「女は子供を産む機械じゃない」だったよね。
ここでもう、僕は色々フッツリ切れちゃったよ。
……お前みたいなゴミが何の裁きも受けない世の中は間違っていると思った。
そのために、僕は秘密結社・暗黒十字軍に入ることにしたんだ。
彼らは僕をそこのお抱え科学者で、かつ四天王の1人のプロフェッサーダークネスにしてくれるって言うんだよ。
とても嬉しいね。
……その組織の力で、マンションを売り払い、その金を全額組織の活動費に回したよ。
お前が受け取る取り分なんて1円も無い。
ああ、クレカも間も無く停まるから。
お前の資産はお前名義の銀行口座しかないよ。
……まあ、お前は貯金をほとんどしてなかったから、それもすぐ底をつくだろうけど。
じゃあな。
あとは1人で生きていけ。この寄生虫。
二度と人間に生まれてくるなよ。
……酷い!
妻を放り出すなんて!
これはモラハラだ! 経済的DVだ!
「人の心が無いのかあのクソデブがー!!」
私の叫びが、空っぽのマンション内部で響いた。
その後。
『ネメシス、準備は良いですか?』
無線で私に、本部からの言葉が届く。
私はそれに対し
「ええ。いつでも行けるわ……ここの施設にプロフェッサーダークネスがいるのよね?」
そう最終確認をする。
無線の向こうのスタッフが
『ええ。情報部の情報によれば間違いないはずです』
それだけ聞ければ、充分。
今日こそ……あの日の恨みを晴らすことができる。
……裸同然で、社会に放り出された私は。
すぐさま次の夫を探そうとしたが、あの豚は離婚せずに失踪してしまっていて。
重婚状態になるため、私は婚活できなかった。
……許せない。女にこんな酷い仕打ちを。
私は夫の失踪を国に届けたが、それでもすぐさま独身にはなれない。
よって私は、間を置かずに再び専業主婦に返り咲くことが出来なかった。
……こんなにも女を苦しめるなんて。地獄に行くべきよクソデブ!
だが、元夫を呪っても、事態は好転しない。
なのでやむなく私は就職したのだけど。
専業主婦が長かったから、私は社会に馴染めなかった。
失敗が続き、給料を得て生活基盤を築くよりも。
モノを壊して、逆に借金を増やす結果になることが多かったのだ。
借金が増え、どんどん身動きが取れなくなる。
そんなとき。
食い詰め労働者を対象に「反社会勢力と戦うための戦士を作る目的の改造手術」を受けないかと言う募集が掛かって。
私はそれに参加した。
そうするしか、生きていく道筋が立たなかったのだ。
私はそんなことを思いながら歩き。
私はこう心を解き放つ。
「私から逃げた罪……償わせてやるプロフェッサーダークネス……!」
私の名はメタルライダー・ネメシス。
復讐の女神をその名に冠する正義のヒーロー。
私は駆け出す。
悪の基地に向かって。
腕をクロスしながら。
「変身!」
コールする。
ヒーローの出番です!
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