第37話 並行世界覗き見サービス
『あのとき守れなかった約束を、もう一度。と思うアナタへ』
それがそのサービスのキャッチフレーズだった。
人間、生きていれば後悔ってものが出てくる。
特に、他人を裏切ってしまったという後悔。
これはときおり、死にたくなるような辛さを人間に
ある作家さんが言った言葉だけど
「人間、一番不幸であることとは何か? それは、自分が卑怯者であると自覚してしまったときだ」
彼は、だから卑怯な行いは絶対にしてはいけないという文脈でそう言ったんだけど。
何かしら約束を守れなかったときも、似たものを感じると俺は思うんだ。
このサービスは、そういう願いに応えたもので。
利用者に「その約束が守れていた場合、どのような未来が訪れていたか」を見せてくれる。
それが「平行世界覗き見サービス」
……だいぶ昔に、並行世界の実在が科学的に確認されたんだよ。
そこで人間の人生は、その無数の決断や試練の結果などで未来が分岐し、それぞれに並行世界があるという事実が明らかになった。
このサービスは、そんな並行世界を検索し、その世界の状況を覗き見するサービス。
俺は高校2年生のとき。
桔梗の花の季節……7月くらいだっただろうか。
そのときに、クラスの女子に告白された。
下校中に1人きりになったときに道端で突然に。
俺のことを追いかけてまで、告白してきてくれたことが嬉しかったのと。
その子がクラスでも特に綺麗な子だったので、俺は告白を受け入れた。
その後、夏祭りに一緒に行き。
打ち上げ花火を見た。
そこで「来年も一緒に見よう」って約束したんだ。
……その約束は守られなかったけど。
そこに至るまでに、俺は彼女と別れたからだ。
俺は彼女と付き合って、成績が落ちた。
一緒にいるのが楽し過ぎて、つい学業が疎かになってしまったんだ。
なのでこのままでは俺は人生で躓くと思ったから
「大学受験が終わるまで、会うのは控えよう」
って彼女に伝えた。
すると彼女は
「夏祭りくらいは一緒に行こうよ」
って言って来た。
でも俺はそういうのを認めるとずるずる同じ状況が続いていくと思ったから
「ダメだ」
こう言ったんだな。
すると彼女は
「約束したのに!」
って言って泣き出した。
俺は、こういうのが大嫌いだったんだ。
泣けば要求が通る、なんていう態度。
それが許されるのは小学生までだ。
だから感情的に
「別れようか」
俺はそう切り出したんだ。
……思えばあのとき。
あまりにも短絡的な選択をしたと思うんだ。
そういうイベント事を大事にするのは、別に普通のことだよな。
泣くまで行ったのは、それは彼女が俺をそれくらい大事に思ってくれていたことの現れだったはずだ。
だからまあ、心残りとしてあったんだよ。
俺が彼女をフったことは。
「森田様、確認したいのはこの選択の未来でございますか?」
そう職員さんは言って来た。
俺は頷く。
すると職員さんは
「了解致しました。それでは102番の部屋にお進み下さい。望む世界をお見せ致します」
並行世界を観測する個室は、狭い部屋で。
多分、ネットカフェの個室の状況を思い浮かべて貰えれば、一番近いと思う。
俺はそこで、モニター上であの日のifを観測したんだ。
「分かった。約束だったよな」
そう言って俺は頷き、細かい約束をした。
彼女は嬉しそうに微笑み、その内容を手帳に書き留めていた。
夏祭り当日。
俺が神社の前の狛犬の前で彼女を待っていると。
「お待たせ」
彼女は浴衣姿で現れた。
それはとても扇情的で。
「綺麗だよ」
そう言ってあげると、彼女は嬉しそうだった。
そしてその後。
2人で穴場の花火スポットに行ったんだ。
人が来ないのに、打ち上げ花火は良く見える。
まさに、穴場。
そこで2人で打ち上げ花火を見て
その後、襲われた。
……実はそこは、若いカップルがこっそりやってくるのがその筋で有名で。
そういうカップルを襲撃し、女性を暴力的に襲う奴らの穴場でもあったんだよな。
そこで複数の荒くれ男を前にして俺は
彼女を置いて逃げ出したんだ。
そのときの彼女の顔が絶望的で。
胸が締め付けられた。
……その後の顛末だが。
そこから彼女は引きこもりになり、俺たちの関係はそこで終わってしまったようだった。
その後彼女は引きこもりのまま、俺はその高校を卒業し。
そのまま、通常通り県内の国立大学に進学したから。
俺はそこで見るのを止めた。
覗き見終了のアイコンをクリックする。
真っ暗になる画面。
そして、ため息を吐く。
「……これもダメなのか」
独り言ちる。
「お見合いパーティーでアイツと付き合わなかった未来はすでに確認済みだから……結局は今が一番マシなんだな。きっと」
俺は覚悟を決めたよ。
今の相手で我慢することを。
多少欲深くて、煩くて。
喧嘩が絶えないが、致命的なほどでは無い。
そんな相手でも、覚悟があるなら耐えられる。
多分アイツも今は同じことを思ってるんじゃないかな。
俺以外の相手なんてそもそも無かったんだ、ってことに。
……あ、でも。
そういえば「来年の夏祭りの約束をしてなかった未来」はまだ未確認だな。
念のため、そっちも見ておくか。
そう思い俺は、職員さんに追加注文をするべく、部屋に備え付けられた連絡端末を操作した。
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