第23話 吸血鬼の夫婦の喧嘩
「あなた、自分の傷跡をやたら強調するけどさぁ」
彼女はそう、俺を軽蔑する目で見据えながら言って来た。
「私の一撃が痛かったからといって、私に硫酸を掛けてくるのはどうなの?」
「キミだって、いきなり手斧で襲って来るのは酷いんじゃないのか!?」
俺たちは吸血鬼だ。
吸血鬼の夫婦だ。
種族的特性として、完全な再生能力がある。
人間どもは、十字架や聖水に弱いなんて夢を見ているが。
それは嘘。
本当なのは、日光に弱いこと。
心臓を白木の杭で貫かれると、即死すること。
それ以外は、俺たちには何の意味も成さない。
なので……
夫婦喧嘩になったとき、暴力行為がエスカレートするのだ。
何せ、殴ったくらいでは双方ダメージにはならず、恐怖を与えることも出来ない。
相手に「パートナーを怒らせたから、自分はこんな目に遭ったのだ」と思わせないと、暴力を振るう意味がないというか。
最初は、双方ムカついたら金槌で相手の頭蓋骨を叩き割るということをやった。
無論、痛い。くらくらする。
だけど、すぐ治る。
一瞬だ。
で。
……そのうち、金槌で殴る痛みに「慣れた」
相手が平気な顔をするようになってしまったのだ。
そんなの、悔しいじゃないか。
で、金槌をやめて、剣で斬り付けるようになった。
それも最初は痛がっていたけど。
それもそのうち「慣れた」
だったら……!
そう思い、試行錯誤の結果、今がある。
今日は俺が硫酸掛け。彼女が手斧での腕切断だ。
手斧は重さで威力が倍増するからな。凶器としては良いチョイスかもしれん。
彼女は頭が良い。まぁ、そこに俺は惚れて結婚したんだが。
でも、これもそのうち慣れるんだろうな。
……そうなったら、また彼女に自分の間違いを自覚させることが出来なくなるから、困るじゃないか。
クソッ……!
俺は思案した。
そして……
「キミはいつもそうだ! 他人の悪口ばかり言って! 小学生から全く成長していない! 知恵が働くだけが賢いって思い込んでるんじゃないぞこの精神的万年メスガキ!」
「誰がメスガキよ! そんなこと言ってるから、あなたは最低なのよ! あなたなんかより、吸血鬼大学校の研究室で一緒だった先輩の方がよっぽど良い男だったわ!」
……相手を精神的に傷つける方法なら、慣れることは無い。
そして、肉体へのダメージ同様、跡が残らないんだ。
完璧じゃないか。
俺たちは貴族の種族だからな。心が繊細なのだよ。ゴミのようなくだらない人間種族とは違って。
だから、言葉の暴力に慣れることは絶対にない。
しかし……
この方法にお互い切り替えてから。
相手のことがどんどんどうでも良い存在になっていく気がする。
気のせいだろうか……?
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