12話 マルスの槍
殺神部隊の目的。それは、神々が残した遺物を破壊することである。
しかし、古代の未知の力の結晶故なのか、それらは「人が作ったもの」では壊すことはできない。
神々が作ったとされる、妖精やドラゴン、吸血鬼といった幻想生物も同じだった。
剣も銃器も、強力な酸や爆弾でさえも、遺物はそれらを無効化してしまう。
だが初期殺神部隊は、ある秘策を思いついた。自分たちの行動理念に、あまりに矛盾していたその策は、猛烈な反発を浴びるも、効果は覿面であった。
目には目を歯には歯を、「遺物には遺物を」
そう、彼らは「破壊すべき遺物を用いて、それらを破壊する」のだ。
「戦と混沌の神よ。汝に命ず」
「汝、全てを灰燼に帰す者。汝、畏怖されし不屈の象徴ならば、その身を我に預けよ。」
手のひらが、猛烈に熱い。体が燃え尽きそう。いつまでたっても、この感覚にはなれない。
初めてこれを使ったとき、頭に流れた『詠唱』を唱える。すると、遺物は高熱を持ち、強く震えだす。遺物が発動する合図だ。
「汝の槍よ、我が剣に宿れ。汝の力よ、我が身に宿れ。」
次の瞬間、警棒の形をした遺物が、熱風を放ち光をまとった。
あまりに強く熱い風に、上空で羽ばたくインプたちの態勢が崩れる。
やがて遺物は、黒から光沢を持った赤に、警棒から装飾が施された、鋭い刃を持つ槍へと変化していく。
「人よ、我らが脅威たる神と化すことを、許したまえ」
殺神部隊でありながら、神の力を借りること、人を脅かす力を持つことへの罪悪感は拭えない。
けれど、どうか許してほしい。この力で、私たちは奴らを打ち倒し、人類を救って見せる。
この燃えるような熱さに耐えることが、私への罰。奴らを駆逐するのが、私の使命。
『軍神乱武(マルス・バッラーレ)!!!』
殺神部隊イタリア支部が保有する、軍神マルスの槍。
それが、私が持つ遺物。それが、私の『神の殺し方』
「さぁ、お仕置きの時間よ。お前たちが侮辱した私の力、とくと味わいなさい」
ティンタジェル城は、崖沿いということもあってか、監視するのにちょうどいい穴場がある。
男は、コートから双眼鏡を取り出して、海辺を観察し始めた。
見た目は、どこにでもいる一般男性のように思える。見晴らしの良い場所に立ち、美しい大自然を眺める。
それは、観光地ならどこにでもある光景だったからだ。
だが、男の胸のうちは、そう穏やかなものではなかった。
『なんと汚らわしい!!! たかだか我ら人間風情が、神々の御力をあんな風に使うなど!』
今すぐに、男は双眼鏡を地面に叩きつけて、怒鳴り散らしてやりたい気分だったのだ。今回の監視対象、殺神部隊とかいう、なんとも不敬極まりない集まりの一員。
今はまだ、『その時』ではない。遺物を用いて召喚したインプ共は、ただの試用運転だ。
男は双眼鏡を覗きこみつつ、妄想にふける。
『あぁ、神々よ。どうか御覧くださいませ! あなたの使いが、あの女を嬲り殺すところを!!!』
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