16話 届いた小包
カツンというヒールの音がタイルの床に響く。白い漆喰の壁に、ろうそくの影が揺らめいている。
古びた木材の匂いで教会内は満たされていたけれど、不思議と不快感は感じなかった。奥の方には祭壇と十字架があり、ステンドグラスの色鮮やかな光がそれらを照らしている。
その祭壇の横には、黒いガウンを羽織った、60代くらいの男性がいた。突然の来訪者に驚くこともなく、彼は私たちの方に向かう。
「すみません、あなたがここの……?」
「えぇ、この教会の牧師を務めております。チャールズ・メイヤーです」
男性ことチャールズ牧師は、微笑みながら自己紹介をしてくれた。さすがは教職者ということもあって、その立ち振る舞いは気品に満ち溢れている。
彼が私たちの来訪の理由を問うと、私の代わりにハワードが口を開いた。
「僕はジョン・エヴァンズと言います。彼女はアメリア・モートン。実は僕たちこういう者でして……」
ハワードが自分のコートから『警察手帳』を取り出す。
手帳も名前も偽物だというのに、そうとは微塵も感じさせないほどに、彼の口調もしぐさも自然だった。
そうとは知らないチャールズ牧師は、動揺しているのか視線がぐらりと揺らぐ。
「警察の方が、どうして私の元へ?」
「ある殺人事件の被害者が、ここに生前来たことがある、といった情報を掴んだからです。単刀直入に聞きますが、今回の被害者デクスター・ワイズという男をご存知ですか?」
デクスターという名前を聞いた瞬間、チャールズ牧師は愕然としたかのように、口に手を当てて目を見開いた。そして心苦しそうに目を細めて、胸のロザリオを手に取る。
「おぉ、天にまします我らが父よ! どうして、どうしてこのような、彼は善良な人間であったというのに……」
「ではやはり、あなたとワイズさんはお知り合いだったのですね」
私がそう問うと、チャールズ牧師は静かに語り始めた。
教授が牧師と初めて出会ったのは、数か月前のこと。牧師も教授もアーサー王伝説のファンで、意気投合して仲良くなったみたい。
それからはメールでやり取りをしつつ、教授が時々ここまで来て、伝説について議論していたそう。
「1週間程前なりますか、デクスターから私宛に小包が届きました。小包には差出人の名前だけで、中身がなんなのか書いていませんでした。
そのため私は、理由と中身を聞くために電話をしたのですが、彼が電話に出ることはなく……
メールも電話も何度しても繋がらず、彼が次にここに来た時、色々問いただしてみようと決めていたのに…………」
同じ年代、同じ趣味を持つ者同士が語り合い、お互いの親交を深めていたというのに……
そんな大切な日々を、突然なんの理由もなく奪われてしまった。教授の教え子アリシアと同じように、チャールズ牧師も深い悲しみ、後悔に沈んでいるようね。
「それで、その荷物は?」
「今持ってきます」
尋ねると、チャールズ牧師は奥の部屋から、小包を持ってきた。
段ボール箱にデクスターの名前が直接書かれており、大きさはティッシュ箱くらい。どうやって送ったのかしら、もしかすると自分でここまで運んだ可能性もあるわね……。
「開けても?」
「えぇ、お願いします。本当はデクスターが来てから、二人で開ける予定だったのですが、もうその日が来ることは、ありませんから……」
私たちがここに来た時のように、彼は穏やかな笑みを浮かべて答えたけれど、明らかにその声色は悲しみに染まっていた。
教授の遺品でもあり、犯人の手がかりとなるかもしれないその箱を、私は慎重に封を切り、ガサリという音とともに開けた。
「これは……?」
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